2014年 10月 22日
郵便局と蛇 |
腕力と大声だけが取り柄の、妻に逃げられた男が、虎の皮を被ってライオンと戦うはめになる「銀色のサーカス」、トゥルース(真実)という名前をもつ立派な王女が、どういうわけか民たちから疎まれて王位につけない「王女と太鼓」など、コッパードの短編10編を収録。
1878年生まれの人なので、文体としてはヴィクトリア朝の香りがするのですが、1957年まで生きていたので、話の中には電柱やエレベーターといった現代文明の産物のようなものも登場して、その違和感が逆に面白い。ちょっと時空間がねじれて、そのすきまに吸い込まれるような感じです。
そういえば、訳者あとがきで「銀色のサーカス」とよく似た「ライオン」という落語が明治時代に創られているという話が出ていました。訳者がいろいろ調べた結果、どちらの話にも元になる言い伝えのようなものがあったらしい。国籍がちがっても誰もが同じようなことを考えたのか、あるいは世界のどこかの片隅でだれかがふと口にした思いつきが、その面白さゆえに世界中を旅することになったのか、いずれにしても物語というのは面白いなあと思いました。
そんなふうに考えていると、コッパードの作品には物語性というかお話性が強いものが多い気がします。キリスト教的な要素の強い「うすのろサイモン」や「シオンへの行進」だって、『宇治拾遺物語』のようにもとらえられる。変わり者のおじさんからとんでもない話を聞かされて当惑しながらもワクワクする気分。
そんな中では唯一、いかにも短編小説らしい仕上がりの「ポリー・モーガン」は、二重三重の罠が仕掛けられていて、読み応えがあります。タイトルからしてあれっ?と思わせておいて最後に納得させるという、実に巧く書かれた作品。
「シオンへの行進」は、あまりにもキリスト教色が強くてわけがわからなかった。最後がこれだから、道に迷ったまま置き去りにされた気分。そういうのがいやな人はこれを最初に読んでしまうほうがいいかもしれない。
郵便局と蛇: A・E・コッパード短篇集 (ちくま文庫)
作者:A・E・コッパード
訳者:西崎 憲
出版社:筑摩書房
ISBN:4480432078
1878年生まれの人なので、文体としてはヴィクトリア朝の香りがするのですが、1957年まで生きていたので、話の中には電柱やエレベーターといった現代文明の産物のようなものも登場して、その違和感が逆に面白い。ちょっと時空間がねじれて、そのすきまに吸い込まれるような感じです。
銀色のサーカス表題作はあまりにも短いのであらすじを書くだけでネタバレになってしまいそうですが、イギリス人のコッパードがあえてアイルランドを舞台にしたのがなんとなくわかるような奇妙でファンタジックで滑稽な話です。これ、たとえば現代の演芸場でコメディアンが上手に語ってもうけそうな感じ。
郵便局と蛇
うすのろサイモン
若く美しい柳
辛子の野原
ポリー・モーガン
アラベスク―鼠
王女と太鼓
幼子は迷いけり
シオンへの行進
そういえば、訳者あとがきで「銀色のサーカス」とよく似た「ライオン」という落語が明治時代に創られているという話が出ていました。訳者がいろいろ調べた結果、どちらの話にも元になる言い伝えのようなものがあったらしい。国籍がちがっても誰もが同じようなことを考えたのか、あるいは世界のどこかの片隅でだれかがふと口にした思いつきが、その面白さゆえに世界中を旅することになったのか、いずれにしても物語というのは面白いなあと思いました。
そんなふうに考えていると、コッパードの作品には物語性というかお話性が強いものが多い気がします。キリスト教的な要素の強い「うすのろサイモン」や「シオンへの行進」だって、『宇治拾遺物語』のようにもとらえられる。変わり者のおじさんからとんでもない話を聞かされて当惑しながらもワクワクする気分。
そんな中では唯一、いかにも短編小説らしい仕上がりの「ポリー・モーガン」は、二重三重の罠が仕掛けられていて、読み応えがあります。タイトルからしてあれっ?と思わせておいて最後に納得させるという、実に巧く書かれた作品。
「シオンへの行進」は、あまりにもキリスト教色が強くてわけがわからなかった。最後がこれだから、道に迷ったまま置き去りにされた気分。そういうのがいやな人はこれを最初に読んでしまうほうがいいかもしれない。
郵便局と蛇: A・E・コッパード短篇集 (ちくま文庫)
作者:A・E・コッパード
訳者:西崎 憲
出版社:筑摩書房
ISBN:4480432078
by timeturner
| 2014-10-22 20:27
| 和書
|
Comments(2)
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by
nobara
at 2014-10-23 13:45
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「銀色のサーカス」は怪奇文学大山脈Ⅱに「シルバアサーカス」として
平井呈一先生の訳で入っていました。有名なアンソロジーピースですね。実際にありそうなお話。サイボーグ009の004の恋人のエピソード
を思い出してしまいました。あまりにキリスト教色が強い話はポカーンとしてしまいます。筑摩さまはサンリオや国書刊行会の傑作をこれからも文庫化して欲しいです。装丁も美しいですし。
平井呈一先生の訳で入っていました。有名なアンソロジーピースですね。実際にありそうなお話。サイボーグ009の004の恋人のエピソード
を思い出してしまいました。あまりにキリスト教色が強い話はポカーンとしてしまいます。筑摩さまはサンリオや国書刊行会の傑作をこれからも文庫化して欲しいです。装丁も美しいですし。
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timeturner at 2014-10-23 22:16
ちくま文庫はラインナップが素晴らしいのに、すぐ在庫ぎれになってしまうのが残念です。このご時世では在庫を抱えるわけにもいかないのでしょうが。それよりなにより、買ってあげなくてはいけないんですよね。反省。