2014年 10月 20日
そばかすの少年 |
片手を失った状態でシカゴの孤児院の前に捨てられていた赤ん坊は、本名も知らないまま育ち、働き手として引き取られた家庭で虐待されて逃げ出した。スコットランド人の実業家マクリーンが所有するリンバロストの森で木材泥棒から森を守る番人として働くことになった少年は、苛酷な森の自然にたったひとりで立ち向かう・・・。
遅ればせながら読みました。やっぱりこっちを先に読んでいればよかった。そうすれば『リンバロストの乙女』を読んでいて、「そばかす」の名前が出るたびに共感できたのに。でもまあ、遅れても読まないよりはずっとましですね。
けっこう長い作品ですが、読み始めたら止まりませんでした。「そばかす」がとてもいい子なので、彼がどうなるのかと心配で心配で、親戚のおばさんみたいに気をもみながら読んでしまった。冷静に読めばあまりにも「いい子」すぎるし、まわりの人たちも少数の判で押したような悪役を除けばいい人ばかり。現実の世の中はこんなもんじゃないよなあとは思うのですが、それでもぐいぐい惹かれてしまうのは、何もかも知っている人だけにできる性格かつ臨場感あふれる筆で描かれるリンバロストの自然の素晴らしさのおかげ。それと、美人でやさしいだけでなく、知恵と決断力と実行力を備えたヒロイン、エンジェルの生き生きとした魅力のおかげ。
自身も「鳥のおばさん(この本ではバード・レディ)」と同様、自然愛好家/写真家だったポーターならではの造形力なのでしょう。森に棲む鳥や動物の生態、木や花の季節による移り変わりがくっきり頭の中に浮かび上がるように描かれています。実際には見たことがない動物や植物なのに、読んでいるうちに具体的な姿が見えているような気がしてしまうんですよね。だから、通常の小説に比べると自然描写の比率が桁外れに多いのに、かえってそれをうれしく思ってしまう。『リンバロストの乙女』にも自然描写はありますが、あちらでは作者の物語作り、キャラクター作りの腕が上がり、そっちに重心が移っているので自然は脇役になっていました。
ところで、最後の三章がくどいというか、てんこ盛り感を感じたのですが、解説を読むと書いた当初は悲劇で終わっていたので出版社が難色を示し、ハッピーエンドに書き換えたのだとか。なるほど、それでよくわかった。前半に手を加えずにハッピーエンドに変えるためには、後半にすべてを説明し、解決する章を加えなくてはならないから、これでもかとばかりに詰めこんだ3章が生まれたわけですね。私としても悲劇よりはハッピーエンドのほうが好きなのでこっちの結末のほうがいいと思いますが、あそこまで極端に「そばかす」の身分を昇格させなくてもよかったような気もする。
現実のリンバロストの森(インディアナ州)は、開発が進んで見る影もなく変わってしまいましたが、ポーターが自分の土地に周囲の自然から移植し、避難させた植物は今でも「野草の森」として地域の人々に保護され、ジーンが住んでいた家も「リンバロスト・キャビン・ノース」として一般公開されているそうです。
そばかすの少年 (光文社古典新訳文庫)
原題:The Freckles
作者:ジーン・ポーター
訳者:鹿田昌美
出版社:光文社
ISBN:4334751814
遅ればせながら読みました。やっぱりこっちを先に読んでいればよかった。そうすれば『リンバロストの乙女』を読んでいて、「そばかす」の名前が出るたびに共感できたのに。でもまあ、遅れても読まないよりはずっとましですね。
けっこう長い作品ですが、読み始めたら止まりませんでした。「そばかす」がとてもいい子なので、彼がどうなるのかと心配で心配で、親戚のおばさんみたいに気をもみながら読んでしまった。冷静に読めばあまりにも「いい子」すぎるし、まわりの人たちも少数の判で押したような悪役を除けばいい人ばかり。現実の世の中はこんなもんじゃないよなあとは思うのですが、それでもぐいぐい惹かれてしまうのは、何もかも知っている人だけにできる性格かつ臨場感あふれる筆で描かれるリンバロストの自然の素晴らしさのおかげ。それと、美人でやさしいだけでなく、知恵と決断力と実行力を備えたヒロイン、エンジェルの生き生きとした魅力のおかげ。
自身も「鳥のおばさん(この本ではバード・レディ)」と同様、自然愛好家/写真家だったポーターならではの造形力なのでしょう。森に棲む鳥や動物の生態、木や花の季節による移り変わりがくっきり頭の中に浮かび上がるように描かれています。実際には見たことがない動物や植物なのに、読んでいるうちに具体的な姿が見えているような気がしてしまうんですよね。だから、通常の小説に比べると自然描写の比率が桁外れに多いのに、かえってそれをうれしく思ってしまう。『リンバロストの乙女』にも自然描写はありますが、あちらでは作者の物語作り、キャラクター作りの腕が上がり、そっちに重心が移っているので自然は脇役になっていました。
ところで、最後の三章がくどいというか、てんこ盛り感を感じたのですが、解説を読むと書いた当初は悲劇で終わっていたので出版社が難色を示し、ハッピーエンドに書き換えたのだとか。なるほど、それでよくわかった。前半に手を加えずにハッピーエンドに変えるためには、後半にすべてを説明し、解決する章を加えなくてはならないから、これでもかとばかりに詰めこんだ3章が生まれたわけですね。私としても悲劇よりはハッピーエンドのほうが好きなのでこっちの結末のほうがいいと思いますが、あそこまで極端に「そばかす」の身分を昇格させなくてもよかったような気もする。
現実のリンバロストの森(インディアナ州)は、開発が進んで見る影もなく変わってしまいましたが、ポーターが自分の土地に周囲の自然から移植し、避難させた植物は今でも「野草の森」として地域の人々に保護され、ジーンが住んでいた家も「リンバロスト・キャビン・ノース」として一般公開されているそうです。
そばかすの少年 (光文社古典新訳文庫)
原題:The Freckles
作者:ジーン・ポーター
訳者:鹿田昌美
出版社:光文社
ISBN:4334751814
by timeturner
| 2014-10-20 21:51
| 和書
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