2014年 07月 19日
ミヒャエル・ゾーヴァ |
ここ一か月ほどのマイブームはドイツの画家ミヒャエル・ゾーヴァ。薄い本が多く、一冊ずつ紹介していては間に合わないのでまとめてしまいます。順不同。
ゾーヴァの箱舟
空飛ぶペンギン、疾走する豚、コンピュータを操る羊たち……ゾーヴァの心の世界からやってきた、不思議な小宇宙の住民たち。魅惑の動物寓話画集。
どっひゃあ。素晴らしすぎて腰が抜けた。画力と想像力とユーモアの幸せな合体。版がもっと大きければいいのに。ところどころ部分だけの掲載もあるのが残念でした。原画を見たいなあ。これまでに日本でも何度か原画展をやっていて、来日もしてたんですね。知らなかった自分を罵倒。
ゾーヴァの箱舟
原題:Arche Sowa
作者:ミヒャエル・ゾーヴァ
訳者:那須田 淳
出版社:BL出版
ISBN:4892386820
ミヒャエル・ゾーヴァの世界
未発表作品も含めた代表作45点を掲載したゾーヴァの画集。
『ゾーヴァの箱舟』より大きな版なので、やった、今度こそ大きな画面で見られる!と喜んだのもつかのま、ほぼ正方形だった『箱舟』と違ってこちらは縦長の版。そこに横長の絵を余白をたっぷりとって印刷するとどうなるかというと・・・そう、『箱舟』より小さい画像がほとんどになってしまうのでした。がーん。それに、印刷が悪い。べったりしていて細部がつぶれちゃってる。比べて見ると『箱舟』の印刷の素晴らしさが際立ちます。さすが絵本専門のBL出版。大出版社である講談社では編集者が立ち会い刷りなんてしないのかもしれないね。『箱舟』のほうはPrinted in Germanyとなっていました。画家のお膝元だから気をつけて印刷したのかも。
と、画集としてはいまいちな出来ですが、間に挿入されているゾーヴァ自身の文章が面白かった。経歴や家族のこと、子ども時代のこと、挿絵、映画、オペラなど今まで手掛けた仕事のことなど、あまりしかつめらしく、気楽にお喋りしたものを聞き書きしたみたいな雰囲気です。(これはやたらに大きな)2枚の著者近影とともに、彼の人となりを知るにはぴったりの内容でした。アクセル・ハッケによるゾーヴァの紹介も楽しい。
日本に行ったときに覚えた日本語が「カンパイ」と「トリミダシタ」の二語という話もおかしい。いつも組んでいる訳者の那須田淳さんが同行して、そのときに教えたらしい。
というわけで、買って手元に置くなら『箱舟』だけど、図書館で借りて読む分にはこちらもお勧めです。
ミヒャエル・ゾーヴァの世界
原題:Michael Sowas Welt
作者:ミヒャエル・ゾーヴァ
訳者:那須田 淳、木本 栄
出版社:講談社
ISBN:4062129043
魔笛
モーツァルトのオペラ「魔笛」の舞台美術をゾーヴァが担当して上演したのちに、舞台のために描いた原画を本にしたもの。日本版はドイツ版には収録されたなかった絵を加え、那須田淳がオペラを小説仕立てにした文章を書きおろしている。
オペラには疎く、「魔笛」はケネス・ブラナーが監督した映画でしか見ていません。しかもその映画は第一次世界大戦を背景にしたものだったので、タンタジーと現実の違和感が大きく、あまり楽しめない内容でした。
でも、この本に書かれているようなストーリーで、こういう装置で、こういう衣装で上演されたのならさぞかし楽しかっただろうなと思います。ゾーヴァらしい幻想的な背景に、モダンだったり民族調だったりなんでもありの衣装をつけた登場人物たちが実にしっくりなじんでいます。
トビラの絵のおふざけにもくすっとしました。立派なオペラの本なのにこういうことをするのがゾーヴァですよね。
魔笛
原題:Die Zauberflote
文:那須田 淳
絵:ミヒャエル・ゾーヴァ
出版社:講談社
ISBN:4062113015
ひみつのプクプクハイム村
うーん、ゾーヴァの絵は楽しいけど話はいまいち。ひょっとしたらドイツ語で読めばユーモアがこんなに薄っぺらじゃないのかもしれないけれど。原文の全訳ではなくて抄訳だそうなので、そのせいかもしれない。
あるいは私が、オナラとか裸のお尻とかのクスグリを好きじゃないせいだろうか。子どもは喜ぶのかな。
ひみつのプクプクハイム村 (講談社の翻訳絵本)
原題:Stinkheim am Arschberg
作・絵:ミヒャエル・ゾーヴァ
訳者:木本 栄
出版社:講談社
ISBN:4062830744
エスターハージー王子の冒険
由緒正しいウサギの貴族エスタハージー家は、ウィーンで長年の繁栄を誇ってきたが、当主の伯爵は子孫がだんだん小柄になってきていることに気がついた。このままではミニチュアウサギの一族になってしまう。そこで伯爵は孫たちに命じた。広い世の中に出ていって、体の大きいお嫁さんを探すのだと・・・。
ゾーヴァが初めて挿絵を手がけた本。
ベルリンに行かされた一番チビのエステルハージー王子がさまざまな困難に遭いながらもなんとか頑張り通して理想の女性(雌ウサギ)と出会うまでのお話です。訳者あとがきによると、壁があったころのベルリンでは壁周辺の草地は小動物の天国だったのだそうです。この本はその話にインスパイアされて書かれたらしく、大都会ベルリンでエステルハージー王子がようやくみつけたウサギ族たちは壁の近くで幸せに暮らしていました。ところがその壁が壊されることになり、ともうひと波乱あるのですが、作者たちが言いたかったのはエステルハージー王子に言わせた「壊すなら、壁なんて最初から作らなきゃいいのにさ」だったのではないでしょうか。
ミヒャエル・ゾーヴァが描くウサギは当然ながら愛らしく、特にエステルハージーが人間用の大きな豹柄パンツを試着するところなんて悶絶ものです。この絵、画集の『ゾーヴァの箱舟』に載っていて、どういう経緯で描かれたんだろうと思っていました。
ところで、主人公の名前エステルハージーは『エステルハージ博士の事件簿』にも使われていた東欧の名門貴族エステルハージ家(Eszterhazy、ドイツ語ではEsterhazy)のことですよね。ドイツ語でhazyがウサギを意味することから考えついたダジャレに違いない。
エスターハージー王子の冒険 (児童図書館・文学の部屋)
原題:Esterhazy
作者:イレーネ・ディーシェ、ハンス・マグヌス・エンツェンスベルガー
イラスト:ミヒャエル・ゾーヴァ
訳者:那須田 淳、木本 栄
出版社:評論社
ISBN:4566012859
ちいさなちいさな王様
ある日、僕の部屋、人差し指サイズの小さな王様が現れた。王様の世界では生まれたときがいちばん大きくて何もかも知っており、年をとるに従い小さくなり、知っていたことを忘れていくのだという……。
わたしたちの世界とはまったく逆のライフサイクルの世界からきた王様の話を聞いているうちに、大人になること、年をとること、生きること、夢をみることなどについてまったく異なる視点から物を考えるようになる「ぼく」。そしてもちろん、読んでいるこちらもあべこべの世界観にじわじわと影響され始めます。
アクセル・ハッケとミヒャエル・ゾーヴァが最初に組んだ仕事で、ドイツでは30万部をこえるベストセラーになった作品だそうです。哲学的だけれど難しくはなく、人生の重苦しさをほんの少し軽くしてくれるところが現代の大人に受け入れられたのでしょうか。図書館ではYA枠にあり、かなり人気があるようで、収蔵冊数があるのに待たされました。大人でもない、こどもでもない、ちょうど「ぼく」と王様の中間くらいの人たちには確かに向いていると思う。
ゾーヴァの絵は相変わらず素晴らしく、野原にいる王様の絵はポストカードでもいいから手に入れたいなあ。
ちいさなちいさな王様
原題:Der Kleine Konig Dezember
作者:アクセル・ハッケ
イラスト:ミヒャエル・ゾーヴァ
訳者:那須田 淳、木本 栄
出版社:講談社
ISBN:4062083736
怖るべき天才児
気難しい叔母を怒らせたために恐ろしい呪いをかけられた少女、特別な魔力を持つ名前を付けられた少年、天才的な頭脳を持っていた双子のかたほう、胴回りは太く体も大きいのに体重が異常に軽い少年などなど、普通じゃない運命を背負った子どもたちの人生7つを描く短編集。
ここのところお気に入りの画家ミヒャエル・ゾーヴァが、今回はドイツ人のアクセル・ハッケではなくイギリス人の女性作家と組んでいます。ゾーヴァのシュールで不気味な人物像が内容に合ってはいるんですが、彼が描く子どもはみんなでっぷりしているので、ドイツ人の子どもに見えてしまいます。でも、それって単なる偏見かな。イギリス人だってハリー・ポッターに出てくるダドリーみたいな子がいるわけだし。そもそも、7編のうち2編は作中で主人公が太っていると書かれているのですから。
これを読む前に『大いなる不満』を読みました。あちらも奇妙で不条理な話ではあったのですが、読後感がまるで違う。どちらも人間の本性やこの世の成り立ちに過度な期待をしていない人が書いたものという印象ですが、あちらがからっと明るい気分で読み終えたのに対して、こちらは暗いとまでは言わないものの、なんだかすっきりしないどよんとした気分になるのです。ハッピーエンドの話だってあるのに。どうしてかなあ。
怖るべき天才児
原題:Unlikely Progeny
作者:リンダ・キルト
イラスト:ミヒャエル・ゾーヴァ
訳者:二宮千寿子
出版社:三修社
ISBN:4384040830
お皿監視人 あるいはお天気を本当にきめているのはだれか
ドイツには、お皿に食べ物を残すと雨、お皿をカラにすれば晴れという言い伝えがある。マークとサラはある日それが単なる迷信ではないことを教えられる。特定のお皿に食べ物を残すかどうかが世界各地の気象に大きな影響を与えているのだ・・・。
すごく奇妙な味わいの話でした。最初のうちはゾーヴァの挿絵ということもあり、いつものようにユーモアをまじえた哲学的な寓話なんだろうなと思いながら読んでいたのですが、事態はどんどん思いがけない方向に進んでいき、少年探偵団が出てきたあたりからはSFチックな冒険アクション・アドベンチャーの世界に入り込んでいました。
子どもらしからぬ言葉の使い方や、ドライなやりとりなど、すべてにおいて児童文学離れしていますが、現実にはこういうのが子どもには受けそうです。作者はジャーナリストでもあるそうなので、地球温暖化や第三世界に対する先進国の思い込みなど、現代社会に見られるさまざまな問題に関する皮肉もあちこちに散りばめられています。ぎょっとする結末ですが、この人の書いたもの、ほかにも読んでみたいと思いました。
お皿監視人 あるいはお天気を本当にきめているのはだれか
原題:Die Tellerwächter,oder,Wer das Wetter Wirklich Macht
作者:ハンス・ツィッパート
イラスト:ミヒャエル・ゾーヴァ
訳者:諏訪 功、ヴォルフガング・シュレヒト
出版社:三修社
ISBN:4384055610
ヌレエフの犬 あるいは憧れの力
トルーマン・カポーティのパーティで、彼らは出会った。エレガントですらっとしたロシア人ダンサー、ルドルフ・ヌレエフと不器量で怠惰な犬オブローモフはお互いを愛し尊重しながら幸せに暮らすが、やがて別れの日がやってくる。ヌレエフに先立たれたオブローモフの心の奥から、踊りたいという衝動がつきあげてきて・・・。
『黒猫ネロの帰郷』の作者によるものです。実在の有名人たちがたくさん登場して、虚実とりまぜた話が語られるのですが、ちょっととぼけた語り口がゾーヴァの絵とマッチして、なんともせつなく、心地よく、ほのぼのしてきます。カポーティが銀の皿からシャンパンを飲むエピソードなんて、ほんとにあったのかな。ありそうだけど。
カポーティもヌレエフもオブローモフも年老いたバレリーナも、みんな寂しい心を抱えているけど、それでも決してあきらめないんだよね。はたから見たら徒労と思えても、心が示す方向に進み続ける。それを気負いなく淡々と語るのがいい。
ヌレエフの犬―あるいは憧れの力
原題:Nurejews Hund,oder,Was Sehnsucht Vermag
作者:エルケ・ハイデンライヒ
挿絵:ミヒャエル・ゾーヴァ
訳者:三浦美紀子
出版社:三修社
ISBN:4384040679
エーリカ あるいは生きることの隠れた意味
仕事仕事で明け暮れた一年が終わろうとしているベルリンで、ベティは昔の恋人フランツからクリスマス休暇を一緒に過ごさないかと誘われ、つい承知してしまった。フランツへのお土産を買いにデパートへ行ったベティは、なぜかマスタードの代わりに実物大のブタのぬいぐるみを買ってしまう・・・。
初めのうちは妙にやさぐれた中年女性の独白が続いて、うわ、ゾーヴァの表紙絵と挿絵に騙された?と思ったのですが、ブタのぬいぐるみを買ったところから一気にクリスマスストーリーらしくなっていきます。
特大のブタのぬいぐるみエーリカと一緒にいるだけで、行く先々の空気が変わり、自分も他人もいい人になっていくあたりは、あー、そういうことってあるだろうなあと素直に納得できます。ゾーヴァが描くブタのぬいぐるみは、『ゾーヴァの箱舟』や『ミヒャエル・ゾーヴァの世界』に載っていたスープの中のブタや、池に飛び込むブタと同様愛嬌たっぷりで、なんともいえず愛おしい。ぬいぐるみには子どもの頃から興味がないし、ましてやブタのぬいぐるみが可愛いなんて思ったこともないのに不思議です。
作者は主人公のベティにかなり自分を投影しているんじゃないかな。働くバツイチ女の気持ちが重苦しいほどにひしひしと伝わってきた。それだけに読んでいて身につまされる部分もあるんですが、エーリカがそんな重さをやわらげてくれたし、じめつかない終わり方もよかった。
エーリカ あるいは生きることの隠れた意味
原題:Erika oder Der verborgene Sinn des Lebens
作者:エルケ・ハイデンライヒ
イラスト:ミヒャエル・ゾーヴァ
訳者:三浦美紀子
出版社:三修社
ISBN:4384040091
エルケ・ハイデンライヒが『黒猫ネロの帰郷』と同じ画家と組んだ『ペンギンの音楽会』は、笑わせようという意識だけが空回りしているわりに面白くなくてがっかりしました。リフレインが多いところを見ると、原文は戯れ歌のように書かれているのかもしれませんが、そういう詩情みたいなものが翻訳からは伝わってこなかった。クヴィント・ブーフホルツの絵(特に子どものペンギン)はすごく良かったけど。
ペンギンの音楽会
原題:Am Sudpol,Denkt Man,ist es Heis
作者:エルケ・ハイデンライヒ
イラスト:クヴィント・ブーフホルツ
訳者:畔上 司
出版社:文藝春秋
ISBN:4163186905
ゾーヴァの箱舟
空飛ぶペンギン、疾走する豚、コンピュータを操る羊たち……ゾーヴァの心の世界からやってきた、不思議な小宇宙の住民たち。魅惑の動物寓話画集。
どっひゃあ。素晴らしすぎて腰が抜けた。画力と想像力とユーモアの幸せな合体。版がもっと大きければいいのに。ところどころ部分だけの掲載もあるのが残念でした。原画を見たいなあ。これまでに日本でも何度か原画展をやっていて、来日もしてたんですね。知らなかった自分を罵倒。
ゾーヴァの箱舟
原題:Arche Sowa
作者:ミヒャエル・ゾーヴァ
訳者:那須田 淳
出版社:BL出版
ISBN:4892386820
ミヒャエル・ゾーヴァの世界
未発表作品も含めた代表作45点を掲載したゾーヴァの画集。
『ゾーヴァの箱舟』より大きな版なので、やった、今度こそ大きな画面で見られる!と喜んだのもつかのま、ほぼ正方形だった『箱舟』と違ってこちらは縦長の版。そこに横長の絵を余白をたっぷりとって印刷するとどうなるかというと・・・そう、『箱舟』より小さい画像がほとんどになってしまうのでした。がーん。それに、印刷が悪い。べったりしていて細部がつぶれちゃってる。比べて見ると『箱舟』の印刷の素晴らしさが際立ちます。さすが絵本専門のBL出版。大出版社である講談社では編集者が立ち会い刷りなんてしないのかもしれないね。『箱舟』のほうはPrinted in Germanyとなっていました。画家のお膝元だから気をつけて印刷したのかも。
と、画集としてはいまいちな出来ですが、間に挿入されているゾーヴァ自身の文章が面白かった。経歴や家族のこと、子ども時代のこと、挿絵、映画、オペラなど今まで手掛けた仕事のことなど、あまりしかつめらしく、気楽にお喋りしたものを聞き書きしたみたいな雰囲気です。(これはやたらに大きな)2枚の著者近影とともに、彼の人となりを知るにはぴったりの内容でした。アクセル・ハッケによるゾーヴァの紹介も楽しい。
日本に行ったときに覚えた日本語が「カンパイ」と「トリミダシタ」の二語という話もおかしい。いつも組んでいる訳者の那須田淳さんが同行して、そのときに教えたらしい。
というわけで、買って手元に置くなら『箱舟』だけど、図書館で借りて読む分にはこちらもお勧めです。
ミヒャエル・ゾーヴァの世界
原題:Michael Sowas Welt
作者:ミヒャエル・ゾーヴァ
訳者:那須田 淳、木本 栄
出版社:講談社
ISBN:4062129043
魔笛
モーツァルトのオペラ「魔笛」の舞台美術をゾーヴァが担当して上演したのちに、舞台のために描いた原画を本にしたもの。日本版はドイツ版には収録されたなかった絵を加え、那須田淳がオペラを小説仕立てにした文章を書きおろしている。
オペラには疎く、「魔笛」はケネス・ブラナーが監督した映画でしか見ていません。しかもその映画は第一次世界大戦を背景にしたものだったので、タンタジーと現実の違和感が大きく、あまり楽しめない内容でした。
でも、この本に書かれているようなストーリーで、こういう装置で、こういう衣装で上演されたのならさぞかし楽しかっただろうなと思います。ゾーヴァらしい幻想的な背景に、モダンだったり民族調だったりなんでもありの衣装をつけた登場人物たちが実にしっくりなじんでいます。
トビラの絵のおふざけにもくすっとしました。立派なオペラの本なのにこういうことをするのがゾーヴァですよね。
魔笛
原題:Die Zauberflote
文:那須田 淳
絵:ミヒャエル・ゾーヴァ
出版社:講談社
ISBN:4062113015
ひみつのプクプクハイム村
うーん、ゾーヴァの絵は楽しいけど話はいまいち。ひょっとしたらドイツ語で読めばユーモアがこんなに薄っぺらじゃないのかもしれないけれど。原文の全訳ではなくて抄訳だそうなので、そのせいかもしれない。
あるいは私が、オナラとか裸のお尻とかのクスグリを好きじゃないせいだろうか。子どもは喜ぶのかな。
ひみつのプクプクハイム村 (講談社の翻訳絵本)
原題:Stinkheim am Arschberg
作・絵:ミヒャエル・ゾーヴァ
訳者:木本 栄
出版社:講談社
ISBN:4062830744
エスターハージー王子の冒険
由緒正しいウサギの貴族エスタハージー家は、ウィーンで長年の繁栄を誇ってきたが、当主の伯爵は子孫がだんだん小柄になってきていることに気がついた。このままではミニチュアウサギの一族になってしまう。そこで伯爵は孫たちに命じた。広い世の中に出ていって、体の大きいお嫁さんを探すのだと・・・。
ゾーヴァが初めて挿絵を手がけた本。
ベルリンに行かされた一番チビのエステルハージー王子がさまざまな困難に遭いながらもなんとか頑張り通して理想の女性(雌ウサギ)と出会うまでのお話です。訳者あとがきによると、壁があったころのベルリンでは壁周辺の草地は小動物の天国だったのだそうです。この本はその話にインスパイアされて書かれたらしく、大都会ベルリンでエステルハージー王子がようやくみつけたウサギ族たちは壁の近くで幸せに暮らしていました。ところがその壁が壊されることになり、ともうひと波乱あるのですが、作者たちが言いたかったのはエステルハージー王子に言わせた「壊すなら、壁なんて最初から作らなきゃいいのにさ」だったのではないでしょうか。
ミヒャエル・ゾーヴァが描くウサギは当然ながら愛らしく、特にエステルハージーが人間用の大きな豹柄パンツを試着するところなんて悶絶ものです。この絵、画集の『ゾーヴァの箱舟』に載っていて、どういう経緯で描かれたんだろうと思っていました。
ところで、主人公の名前エステルハージーは『エステルハージ博士の事件簿』にも使われていた東欧の名門貴族エステルハージ家(Eszterhazy、ドイツ語ではEsterhazy)のことですよね。ドイツ語でhazyがウサギを意味することから考えついたダジャレに違いない。
エスターハージー王子の冒険 (児童図書館・文学の部屋)
原題:Esterhazy
作者:イレーネ・ディーシェ、ハンス・マグヌス・エンツェンスベルガー
イラスト:ミヒャエル・ゾーヴァ
訳者:那須田 淳、木本 栄
出版社:評論社
ISBN:4566012859
ちいさなちいさな王様
ある日、僕の部屋、人差し指サイズの小さな王様が現れた。王様の世界では生まれたときがいちばん大きくて何もかも知っており、年をとるに従い小さくなり、知っていたことを忘れていくのだという……。
わたしたちの世界とはまったく逆のライフサイクルの世界からきた王様の話を聞いているうちに、大人になること、年をとること、生きること、夢をみることなどについてまったく異なる視点から物を考えるようになる「ぼく」。そしてもちろん、読んでいるこちらもあべこべの世界観にじわじわと影響され始めます。
アクセル・ハッケとミヒャエル・ゾーヴァが最初に組んだ仕事で、ドイツでは30万部をこえるベストセラーになった作品だそうです。哲学的だけれど難しくはなく、人生の重苦しさをほんの少し軽くしてくれるところが現代の大人に受け入れられたのでしょうか。図書館ではYA枠にあり、かなり人気があるようで、収蔵冊数があるのに待たされました。大人でもない、こどもでもない、ちょうど「ぼく」と王様の中間くらいの人たちには確かに向いていると思う。
ゾーヴァの絵は相変わらず素晴らしく、野原にいる王様の絵はポストカードでもいいから手に入れたいなあ。
ちいさなちいさな王様
原題:Der Kleine Konig Dezember
作者:アクセル・ハッケ
イラスト:ミヒャエル・ゾーヴァ
訳者:那須田 淳、木本 栄
出版社:講談社
ISBN:4062083736
怖るべき天才児
気難しい叔母を怒らせたために恐ろしい呪いをかけられた少女、特別な魔力を持つ名前を付けられた少年、天才的な頭脳を持っていた双子のかたほう、胴回りは太く体も大きいのに体重が異常に軽い少年などなど、普通じゃない運命を背負った子どもたちの人生7つを描く短編集。
ここのところお気に入りの画家ミヒャエル・ゾーヴァが、今回はドイツ人のアクセル・ハッケではなくイギリス人の女性作家と組んでいます。ゾーヴァのシュールで不気味な人物像が内容に合ってはいるんですが、彼が描く子どもはみんなでっぷりしているので、ドイツ人の子どもに見えてしまいます。でも、それって単なる偏見かな。イギリス人だってハリー・ポッターに出てくるダドリーみたいな子がいるわけだし。そもそも、7編のうち2編は作中で主人公が太っていると書かれているのですから。
これを読む前に『大いなる不満』を読みました。あちらも奇妙で不条理な話ではあったのですが、読後感がまるで違う。どちらも人間の本性やこの世の成り立ちに過度な期待をしていない人が書いたものという印象ですが、あちらがからっと明るい気分で読み終えたのに対して、こちらは暗いとまでは言わないものの、なんだかすっきりしないどよんとした気分になるのです。ハッピーエンドの話だってあるのに。どうしてかなあ。
怖るべき天才児
原題:Unlikely Progeny
作者:リンダ・キルト
イラスト:ミヒャエル・ゾーヴァ
訳者:二宮千寿子
出版社:三修社
ISBN:4384040830
お皿監視人 あるいはお天気を本当にきめているのはだれか
ドイツには、お皿に食べ物を残すと雨、お皿をカラにすれば晴れという言い伝えがある。マークとサラはある日それが単なる迷信ではないことを教えられる。特定のお皿に食べ物を残すかどうかが世界各地の気象に大きな影響を与えているのだ・・・。
すごく奇妙な味わいの話でした。最初のうちはゾーヴァの挿絵ということもあり、いつものようにユーモアをまじえた哲学的な寓話なんだろうなと思いながら読んでいたのですが、事態はどんどん思いがけない方向に進んでいき、少年探偵団が出てきたあたりからはSFチックな冒険アクション・アドベンチャーの世界に入り込んでいました。
子どもらしからぬ言葉の使い方や、ドライなやりとりなど、すべてにおいて児童文学離れしていますが、現実にはこういうのが子どもには受けそうです。作者はジャーナリストでもあるそうなので、地球温暖化や第三世界に対する先進国の思い込みなど、現代社会に見られるさまざまな問題に関する皮肉もあちこちに散りばめられています。ぎょっとする結末ですが、この人の書いたもの、ほかにも読んでみたいと思いました。
お皿監視人 あるいはお天気を本当にきめているのはだれか
原題:Die Tellerwächter,oder,Wer das Wetter Wirklich Macht
作者:ハンス・ツィッパート
イラスト:ミヒャエル・ゾーヴァ
訳者:諏訪 功、ヴォルフガング・シュレヒト
出版社:三修社
ISBN:4384055610
ヌレエフの犬 あるいは憧れの力
トルーマン・カポーティのパーティで、彼らは出会った。エレガントですらっとしたロシア人ダンサー、ルドルフ・ヌレエフと不器量で怠惰な犬オブローモフはお互いを愛し尊重しながら幸せに暮らすが、やがて別れの日がやってくる。ヌレエフに先立たれたオブローモフの心の奥から、踊りたいという衝動がつきあげてきて・・・。
『黒猫ネロの帰郷』の作者によるものです。実在の有名人たちがたくさん登場して、虚実とりまぜた話が語られるのですが、ちょっととぼけた語り口がゾーヴァの絵とマッチして、なんともせつなく、心地よく、ほのぼのしてきます。カポーティが銀の皿からシャンパンを飲むエピソードなんて、ほんとにあったのかな。ありそうだけど。
カポーティもヌレエフもオブローモフも年老いたバレリーナも、みんな寂しい心を抱えているけど、それでも決してあきらめないんだよね。はたから見たら徒労と思えても、心が示す方向に進み続ける。それを気負いなく淡々と語るのがいい。
ヌレエフの犬―あるいは憧れの力
原題:Nurejews Hund,oder,Was Sehnsucht Vermag
作者:エルケ・ハイデンライヒ
挿絵:ミヒャエル・ゾーヴァ
訳者:三浦美紀子
出版社:三修社
ISBN:4384040679
エーリカ あるいは生きることの隠れた意味
仕事仕事で明け暮れた一年が終わろうとしているベルリンで、ベティは昔の恋人フランツからクリスマス休暇を一緒に過ごさないかと誘われ、つい承知してしまった。フランツへのお土産を買いにデパートへ行ったベティは、なぜかマスタードの代わりに実物大のブタのぬいぐるみを買ってしまう・・・。
初めのうちは妙にやさぐれた中年女性の独白が続いて、うわ、ゾーヴァの表紙絵と挿絵に騙された?と思ったのですが、ブタのぬいぐるみを買ったところから一気にクリスマスストーリーらしくなっていきます。
特大のブタのぬいぐるみエーリカと一緒にいるだけで、行く先々の空気が変わり、自分も他人もいい人になっていくあたりは、あー、そういうことってあるだろうなあと素直に納得できます。ゾーヴァが描くブタのぬいぐるみは、『ゾーヴァの箱舟』や『ミヒャエル・ゾーヴァの世界』に載っていたスープの中のブタや、池に飛び込むブタと同様愛嬌たっぷりで、なんともいえず愛おしい。ぬいぐるみには子どもの頃から興味がないし、ましてやブタのぬいぐるみが可愛いなんて思ったこともないのに不思議です。
作者は主人公のベティにかなり自分を投影しているんじゃないかな。働くバツイチ女の気持ちが重苦しいほどにひしひしと伝わってきた。それだけに読んでいて身につまされる部分もあるんですが、エーリカがそんな重さをやわらげてくれたし、じめつかない終わり方もよかった。
エーリカ あるいは生きることの隠れた意味
原題:Erika oder Der verborgene Sinn des Lebens
作者:エルケ・ハイデンライヒ
イラスト:ミヒャエル・ゾーヴァ
訳者:三浦美紀子
出版社:三修社
ISBN:4384040091
エルケ・ハイデンライヒが『黒猫ネロの帰郷』と同じ画家と組んだ『ペンギンの音楽会』は、笑わせようという意識だけが空回りしているわりに面白くなくてがっかりしました。リフレインが多いところを見ると、原文は戯れ歌のように書かれているのかもしれませんが、そういう詩情みたいなものが翻訳からは伝わってこなかった。クヴィント・ブーフホルツの絵(特に子どものペンギン)はすごく良かったけど。
ペンギンの音楽会
原題:Am Sudpol,Denkt Man,ist es Heis
作者:エルケ・ハイデンライヒ
イラスト:クヴィント・ブーフホルツ
訳者:畔上 司
出版社:文藝春秋
ISBN:4163186905
by timeturner
| 2014-07-19 16:32
| 和書
|
Comments(2)
Commented
by
nobara
at 2014-07-19 19:57
x
ゾーヴァの箱舟の表紙は一度見たら忘れられません。浮き輪で引っぱっているのは恐竜さん。魔笛はパパゲーノとパパゲーナが可愛い。
「エーリカ」は本当に大人の女性のクリスマスという感じ。ベティにとっても彼女と関る人々にとっても良い休暇だったと思います。暗い画面の中でエーリカだけが暖かいピンク色で・・・。
「エーリカ」は本当に大人の女性のクリスマスという感じ。ベティにとっても彼女と関る人々にとっても良い休暇だったと思います。暗い画面の中でエーリカだけが暖かいピンク色で・・・。
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Commented
by
timeturner at 2014-07-20 19:47
『ゾーヴァの箱舟』は買って手元に置きたい本ですが、実際に手にとって印刷の状態を確かめたいのでアマゾンでは買えません。かといってこの手の本を常備している書店は限られるので、かなり先のことになりそうです。