2014年 06月 21日
ピープスの日記と新科学 |
王立協会の科学者たち、顕微鏡や輸血実験、双底船の発明、科学ブームへの諷刺など、17世紀英国〈新科学〉時代の諸相を描く。
いやあ、ピープスさんってやっぱり凄い。この旺盛な好奇心と、その好奇心を満足させようと貪欲なまでに知識を吸収するパワーはただものではない。ケンブリッジを卒業したとはいえ、ラテン語中心の教育しか受けていないので、科学はもちろん、基本的な算数ですら仕事についてから独学したというのですから、びっくりです。大人になってから九九を覚えたんですよ。それなのに、王立協会の会員となり、種々様々な講演を聴き、本を読み、次から次へと新しい科学的知識を身につけていく様子にはただただ感心してしまいます。
でも、そのピープスさんより凄いのは科学のヴァーチュオーソたち。ヴァーチュオーソという言葉は、この世紀の少し前に英語の語彙になったばかりで、皮肉をこめて広く「蒐集家」をさす言葉だったそうです。特にロバート・フックという人はレオナルド・ダ・ヴィンチのようなルネッサンス人。王立協会の研究員兼雑用係で、上から命じられれば実験用動物の調達から馬車の改良、輸血の手配まですべてひとりでこなし、なおかつ実験も自ら行い、報告書も書きと、10人分くらいの働きをしています。本人にやる気があり、なおかつ才能もあったから出来たことですが。
フックに限らず、当時の科学者ってたいてはアマチュアで、自らの好奇心の赴くまま森羅万象さまざまなことに首をつっこみ、謎を解明していったんですよね。
今の教育って、およそどの分野でも細分化を究めていて、優秀な研究者はそれぞれその細分化された道のどれかひとつを選んだら、他の道からは完全に離れてやっていくことになるけど、本当にそれでいいのかなあ、なんて考えてしまいました。もちろん、17世紀みたいなやり方をしていたら試行錯誤を何度も繰り返さなくてはならず無駄が多いのでしょうが、クロスオーヴァーすることでひょんなところから画期的なアイディアが生まれる可能性もあるんじゃないかと素人は考えるわけです。
Ⅰ アマチュア科学者、サミュエル・ピープス
Ⅱ はじめての輸血
Ⅲ「狂女マッジ」と「才人たち」
付論 ピープス、サー・ウィリアム・ペティ、双底船
ピープスさんがひと目見ようと文字通り〈追っかけ〉をしていたニューカースル公爵夫人、マーガレット・キャベンディッシュも面白い。この女性は詩人、哲学者、エッセイスト、劇作家として活躍した才女(おまけに美人)ですが、風変わりな服装、髪型や奇矯なふるまいで当時〈狂女マッジ〉と呼ばれていたらしい。あまりにも変わっているので、みんながその姿をひと目見たいと熱望し、馬車で市内を走ると熱狂した少年少女が集団で追いかけていったのだそうです。今でいうアイドルですね。
ピープスさんが日記をつけていた期間が短いため、Ⅲ章の後半、「才人たち」を描く部分ではピープスの日記ではなく、当時大変な人気を博したサミュエル・バトラーの諷刺詩に描かれたヴァーチュオーソたちの姿がメインになっています。この手の詩を理解・鑑賞する素養がない私にはちょっとマニアックすぎて近寄りがたかった。作者がひとりで喜んでるみたいなので・・・。まあ、そのへんについては序文で少し言い訳めいたことが書かれています。
ピープスの日記と新科学 (高山宏セレクション〈異貌の人文学〉)
原題:Pepys' Diary and the New Science
作者:マージョリー・ホープ・ニコルソン
訳者:浜口 稔
出版社:白水社
ISBN:4560083045
いやあ、ピープスさんってやっぱり凄い。この旺盛な好奇心と、その好奇心を満足させようと貪欲なまでに知識を吸収するパワーはただものではない。ケンブリッジを卒業したとはいえ、ラテン語中心の教育しか受けていないので、科学はもちろん、基本的な算数ですら仕事についてから独学したというのですから、びっくりです。大人になってから九九を覚えたんですよ。それなのに、王立協会の会員となり、種々様々な講演を聴き、本を読み、次から次へと新しい科学的知識を身につけていく様子にはただただ感心してしまいます。
でも、そのピープスさんより凄いのは科学のヴァーチュオーソたち。ヴァーチュオーソという言葉は、この世紀の少し前に英語の語彙になったばかりで、皮肉をこめて広く「蒐集家」をさす言葉だったそうです。特にロバート・フックという人はレオナルド・ダ・ヴィンチのようなルネッサンス人。王立協会の研究員兼雑用係で、上から命じられれば実験用動物の調達から馬車の改良、輸血の手配まですべてひとりでこなし、なおかつ実験も自ら行い、報告書も書きと、10人分くらいの働きをしています。本人にやる気があり、なおかつ才能もあったから出来たことですが。
フックに限らず、当時の科学者ってたいてはアマチュアで、自らの好奇心の赴くまま森羅万象さまざまなことに首をつっこみ、謎を解明していったんですよね。
今の教育って、およそどの分野でも細分化を究めていて、優秀な研究者はそれぞれその細分化された道のどれかひとつを選んだら、他の道からは完全に離れてやっていくことになるけど、本当にそれでいいのかなあ、なんて考えてしまいました。もちろん、17世紀みたいなやり方をしていたら試行錯誤を何度も繰り返さなくてはならず無駄が多いのでしょうが、クロスオーヴァーすることでひょんなところから画期的なアイディアが生まれる可能性もあるんじゃないかと素人は考えるわけです。
Ⅰ アマチュア科学者、サミュエル・ピープス
Ⅱ はじめての輸血
Ⅲ「狂女マッジ」と「才人たち」
付論 ピープス、サー・ウィリアム・ペティ、双底船
ピープスさんがひと目見ようと文字通り〈追っかけ〉をしていたニューカースル公爵夫人、マーガレット・キャベンディッシュも面白い。この女性は詩人、哲学者、エッセイスト、劇作家として活躍した才女(おまけに美人)ですが、風変わりな服装、髪型や奇矯なふるまいで当時〈狂女マッジ〉と呼ばれていたらしい。あまりにも変わっているので、みんながその姿をひと目見たいと熱望し、馬車で市内を走ると熱狂した少年少女が集団で追いかけていったのだそうです。今でいうアイドルですね。
ピープスさんが日記をつけていた期間が短いため、Ⅲ章の後半、「才人たち」を描く部分ではピープスの日記ではなく、当時大変な人気を博したサミュエル・バトラーの諷刺詩に描かれたヴァーチュオーソたちの姿がメインになっています。この手の詩を理解・鑑賞する素養がない私にはちょっとマニアックすぎて近寄りがたかった。作者がひとりで喜んでるみたいなので・・・。まあ、そのへんについては序文で少し言い訳めいたことが書かれています。
ピープスの日記と新科学 (高山宏セレクション〈異貌の人文学〉)
原題:Pepys' Diary and the New Science
作者:マージョリー・ホープ・ニコルソン
訳者:浜口 稔
出版社:白水社
ISBN:4560083045
by timeturner
| 2014-06-21 17:48
| 和書
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