2014年 04月 28日
死の味 |
教会の聖具室で血溜まりの中に横たわる二つの死体は、喉を切り裂かれた浮浪者と元国務大臣のポール・ベロウン卿だった。取り合わせも奇妙だが、死の直前の卿の行動も不可解だった。彼の生前の行動を探るため、ダルグリッシュ警視長は新しく編成したばかりのチームを率いて捜査にあたる・・・。英国推理作家協会賞受賞作。
ダルグリッシュ警視長が編成した、政治社会的に慎重な扱いが必要な重大犯罪の捜査にあたる特別専従班には、女性警部のケイト・ミスキンと彼女を快く思わないマシンガム主任警部が参加しており、捜査は最初から波乱を予想させます。
宮脇先生によると、ジェイムズは『女には向かない職業』の主人公・コーデリア・グレイの世界とダルグリッシュの世界が相容れないものであることに気がつき、新しい協力者として、このキャラクターを登場させたのではないかということでした。(この本には一か所だけ、コーデリア・グレイの名前が出てきます)
とはいえ、ケイトはコーデリアのように主人公として扱われているわけではなく、他の登場人物と同じ比率で描かれています。というか、これがこの作者の特徴なのでしょうが、登場人物ひとりひとりに対して、きちんと背景を用意し、性格も置かれている状況もすべてこまごまと読者の前に並べてみせます。確かにフェアではあるのですが、登場人物がやたら多いので、読者のほうではあっちに引っ張られ、こっちに引っ張られといった感じで、頭が混乱してくる。これを醍醐味ととるか、めんどくさいととるかで評価は分かれるでしょうね。
《重厚長大》と書いて《P.D.ジェイムズ》と読む、なーんて言いたくなるほど、重~くて長~い作品でした。正直言って最初の数十ページで挫折しかけたけど、それを越えれば登場人物たちの行く末が気になって最後まで読めました。宗教色がかなり強いし、犯人の行動にちょっと無理を感じるし、読後感もすっきりとはいかないけれど、殺人をめぐる人間ドラマと考えれば実に読み応えのある一冊。
不思議なのは、脇役たちをこれほど事細かに描き出しているのに、肝心のダルグリッシュ警視長の姿はつかみどころがなく、曖昧模糊としていること。自分のプライヴァシーを異様なくらい大切にする人物という設定だからなのか、他の人たちは私生活をむきだしにされているのに、ダルグリッシュだけはどういう暮らしをしているのか見えてこない。これは作者が意図してやっているんでしょうか。それとも、ダルグリッシュ物をずっと続けて読んでいれば、次第にわかってくるものなんでしょうか。
それにしても、ジェイムズの一連の本の装丁、もう少しどうにかならなかったのかな。店頭で見かけて手にとりたくなるようなデザインじゃないですよね。まあ、いまさら平積みにされる可能性はまずないから、お金をかける必要はないという判断なのかもしれません。
死の味〈上〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
死の味〈下〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
原題:A Taste for Death
作者:P.D.ジェイムズ
訳者:青木久恵
出版社:早川書房
ISBN:4150766088、4150766096
ダルグリッシュ警視長が編成した、政治社会的に慎重な扱いが必要な重大犯罪の捜査にあたる特別専従班には、女性警部のケイト・ミスキンと彼女を快く思わないマシンガム主任警部が参加しており、捜査は最初から波乱を予想させます。
宮脇先生によると、ジェイムズは『女には向かない職業』の主人公・コーデリア・グレイの世界とダルグリッシュの世界が相容れないものであることに気がつき、新しい協力者として、このキャラクターを登場させたのではないかということでした。(この本には一か所だけ、コーデリア・グレイの名前が出てきます)
とはいえ、ケイトはコーデリアのように主人公として扱われているわけではなく、他の登場人物と同じ比率で描かれています。というか、これがこの作者の特徴なのでしょうが、登場人物ひとりひとりに対して、きちんと背景を用意し、性格も置かれている状況もすべてこまごまと読者の前に並べてみせます。確かにフェアではあるのですが、登場人物がやたら多いので、読者のほうではあっちに引っ張られ、こっちに引っ張られといった感じで、頭が混乱してくる。これを醍醐味ととるか、めんどくさいととるかで評価は分かれるでしょうね。
《重厚長大》と書いて《P.D.ジェイムズ》と読む、なーんて言いたくなるほど、重~くて長~い作品でした。正直言って最初の数十ページで挫折しかけたけど、それを越えれば登場人物たちの行く末が気になって最後まで読めました。宗教色がかなり強いし、犯人の行動にちょっと無理を感じるし、読後感もすっきりとはいかないけれど、殺人をめぐる人間ドラマと考えれば実に読み応えのある一冊。
不思議なのは、脇役たちをこれほど事細かに描き出しているのに、肝心のダルグリッシュ警視長の姿はつかみどころがなく、曖昧模糊としていること。自分のプライヴァシーを異様なくらい大切にする人物という設定だからなのか、他の人たちは私生活をむきだしにされているのに、ダルグリッシュだけはどういう暮らしをしているのか見えてこない。これは作者が意図してやっているんでしょうか。それとも、ダルグリッシュ物をずっと続けて読んでいれば、次第にわかってくるものなんでしょうか。
それにしても、ジェイムズの一連の本の装丁、もう少しどうにかならなかったのかな。店頭で見かけて手にとりたくなるようなデザインじゃないですよね。まあ、いまさら平積みにされる可能性はまずないから、お金をかける必要はないという判断なのかもしれません。
死の味〈上〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
死の味〈下〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
原題:A Taste for Death
作者:P.D.ジェイムズ
訳者:青木久恵
出版社:早川書房
ISBN:4150766088、4150766096
by timeturner
| 2014-04-28 18:54
| 和書
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