2013年 09月 11日
夢幻諸島から |
舞台は地球ではない惑星。「北大陸」と「南大陸」の間に惑星の全周に沿ってミッドウェー海があり、そこに散りばめられた無数の島々は夢幻諸島と総称されている。時間勾配による歪みのために正確な地図の作成が不可能なこの世界を、わかっている範囲で島別に紹介するガイドブック。
面白かったー! ガイドブックの体裁をとっているので平面的な広がりのある話かと思っていたのだけれど、それだけではなく時間的にも広がりがあって、しかもそれが奇妙に歪んでいるので四次元的なふくらみも持っている。
訳者あとがきでは最初のほうは飛ばして読んでもいいなんて書いていますが、私は逆に序文でやられました。ここで説明されているこの惑星の世界観がたまらなく魅力的で、ぞくぞくした。本を開く前には難しかったらどうしようなんてちょっとびくびくしていたんですが、そんな不安はあっという間に消えてしまい、先を読み進めたい気持ちでいっぱいになりました。最初から順番に読んだほうが圧倒的に面白いと私は思う。
島の名前のアルファベット順に並べられた各章はそれぞれ独立した短編として読むことができるけれど、読んでいくうちにさまざまな謎が提示され、その謎が解き明かされ(たように見え)、次にまったく矛盾する事実が述べられというふうにどんどん広がっていく。
読者は、ミッドウェー海に点在する島から島へと旅をしながら事実をひとつずつ拾い集めているような気分になってくる。いわゆる連作短編集なんだけど、そんな簡単な言葉では片づけられないような深くて壮大な線が一本通っているのを感じる。
ガイドブックをまとめている監修者の姿は時に見え隠れするのだけれど、ふつうの小説にはたいていある「神(作家)の視点」というものが見えない。だから個々の作品の間の関連には無頓着で、矛盾も齟齬も気にせず書きたい放題、なにものからも自由な「寄せ集め」といったふうに見える。
この感じを言い表す言葉をいろいろ考えてみたのだけれど、いちばん近いのは模様も大きさも織られた時代も異なる布の集まり。あるものは絨毯のように部屋に敷きつめられるほど大きいし、あるものはハンカチにもならないほど小さな切れっぱし。それらを全部つなげて並べジグソーパズルのようにひとつの絵にすることは不可能だ。でも、どこかに共通する糸(中でも太くて目立つ糸はトンネルと風)がこっそりまぎれていて、読み終えたときに不思議な光を放つ素晴らしい織物が出来上がっている、そんな読後感。
唯一の欠点は誤植が多いことですが(時には意味が変わってしまうようなものも)、400ページを越える大作だから仕方がないのかな。再版の際に訂正されることでしょう。
読んだ人の感想を見ているとたいていの人が書いているのですが、読み終えたとたんに最初からまた読み返したくなります。読んでる途中にも、何度もあちこち戻りました。早く検索可能な電子書籍にしてほしいなあ。
プリーストを読んだのは初めてですが、彼にとって「夢幻諸島」はライフワーク的なテーマだそうで、翻訳された長編はこれが初めてだけれど、この本の中でも言及されている『Affirmation』は1981年に出た長編だし、ほかに何編かの短編が『限りなき夏』にまとめられているらしい。そっちもぜひ読んでみなくては。
夢幻諸島から (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
原題:The Islanders
作者:クリストファー・プリースト
訳者:古沢嘉通
出版社:早川書房
ISBN:4153350113
面白かったー! ガイドブックの体裁をとっているので平面的な広がりのある話かと思っていたのだけれど、それだけではなく時間的にも広がりがあって、しかもそれが奇妙に歪んでいるので四次元的なふくらみも持っている。
訳者あとがきでは最初のほうは飛ばして読んでもいいなんて書いていますが、私は逆に序文でやられました。ここで説明されているこの惑星の世界観がたまらなく魅力的で、ぞくぞくした。本を開く前には難しかったらどうしようなんてちょっとびくびくしていたんですが、そんな不安はあっという間に消えてしまい、先を読み進めたい気持ちでいっぱいになりました。最初から順番に読んだほうが圧倒的に面白いと私は思う。
島の名前のアルファベット順に並べられた各章はそれぞれ独立した短編として読むことができるけれど、読んでいくうちにさまざまな謎が提示され、その謎が解き明かされ(たように見え)、次にまったく矛盾する事実が述べられというふうにどんどん広がっていく。
読者は、ミッドウェー海に点在する島から島へと旅をしながら事実をひとつずつ拾い集めているような気分になってくる。いわゆる連作短編集なんだけど、そんな簡単な言葉では片づけられないような深くて壮大な線が一本通っているのを感じる。
ガイドブックをまとめている監修者の姿は時に見え隠れするのだけれど、ふつうの小説にはたいていある「神(作家)の視点」というものが見えない。だから個々の作品の間の関連には無頓着で、矛盾も齟齬も気にせず書きたい放題、なにものからも自由な「寄せ集め」といったふうに見える。
この感じを言い表す言葉をいろいろ考えてみたのだけれど、いちばん近いのは模様も大きさも織られた時代も異なる布の集まり。あるものは絨毯のように部屋に敷きつめられるほど大きいし、あるものはハンカチにもならないほど小さな切れっぱし。それらを全部つなげて並べジグソーパズルのようにひとつの絵にすることは不可能だ。でも、どこかに共通する糸(中でも太くて目立つ糸はトンネルと風)がこっそりまぎれていて、読み終えたときに不思議な光を放つ素晴らしい織物が出来上がっている、そんな読後感。
唯一の欠点は誤植が多いことですが(時には意味が変わってしまうようなものも)、400ページを越える大作だから仕方がないのかな。再版の際に訂正されることでしょう。
読んだ人の感想を見ているとたいていの人が書いているのですが、読み終えたとたんに最初からまた読み返したくなります。読んでる途中にも、何度もあちこち戻りました。早く検索可能な電子書籍にしてほしいなあ。
プリーストを読んだのは初めてですが、彼にとって「夢幻諸島」はライフワーク的なテーマだそうで、翻訳された長編はこれが初めてだけれど、この本の中でも言及されている『Affirmation』は1981年に出た長編だし、ほかに何編かの短編が『限りなき夏』にまとめられているらしい。そっちもぜひ読んでみなくては。
夢幻諸島から (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
原題:The Islanders
作者:クリストファー・プリースト
訳者:古沢嘉通
出版社:早川書房
ISBN:4153350113
by timeturner
| 2013-09-11 21:23
| 和書
|
Comments(2)
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by
さやか
at 2013-09-12 00:33
x
これは絶対に読もうと思ってる本です。プリーストは『奇術師』と『双生児』を読みましたが、とくに『双生児』がおもしろくて、分厚いのに一気読みしました(でも、大森望さんの解説を読んではじめて全部理解できた、というていたらく)。今度ののも、めちゃくちゃ期待しています。レビューを読んで、読むのがますます楽しみになりました。
そうそう、電書は今月末に出ますよ。わたしはそっちを待ってるところ。銀背シリーズは装幀が好きなので紙版でほしいけど、がまんがまん。
そうそう、電書は今月末に出ますよ。わたしはそっちを待ってるところ。銀背シリーズは装幀が好きなので紙版でほしいけど、がまんがまん。
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timeturner at 2013-09-12 00:44
わっ、もう電子書籍になるんですか! やったー。これは本当に検索したくなる本なので、がまんして待つのが吉です。
『奇術師』は「プレステージ」をみちゃったからもういいかなあと思ってたんですが、『双生児』も面白いんですね。では、まずそちらを読んでみようかな。この人の語り口には独特の魅力がありますね。
『奇術師』は「プレステージ」をみちゃったからもういいかなあと思ってたんですが、『双生児』も面白いんですね。では、まずそちらを読んでみようかな。この人の語り口には独特の魅力がありますね。