2013年 09月 05日
フランス雑貨の旅 |
憧れのフランスで何かに憑かれたように追い求めた”カワイイ”ものたちが、やがて東京にもあふれるようになり、あれほどに惹かれた気持ちが少しずつ薄らいでいく。ただ目新しく素敵だからという理由で家に持ち込んだものたちが、もう刺激や歓びを与えてくれるものではなくなっている。そんなふうに感じたインテリアスタイリストの小澤典代さんは、かつて思い焦がれた理由を探り、もう一歩深くものと関わるためにフランスへ旅立ちます。
年をとって物欲がなくなり、海外旅行をしても買って帰りたいものは本だけという状態の私なので、ふだんは雑貨の本になど興味を惹かれないのですが、これはたまたま手にとったら写真がとてもきれいだったので読んでみました。
「すてきでしょう! あなたも買いなさいよ!」という叫びが聞こえてくるような雑誌や本は苦手だけど、これはなぜか一味違いました。キャリアも長く、ある程度の年齢になっている作者が若い頃のギラギラした欲望から解き放たれているからかな。淡々とした調子で綴られる文章は、美しい写真のそばで邪魔にならず、心穏やかに読めます。
思いがけなくふだん使っているテーブルクロスと同じ布の写真が出てきたときには驚きました。赤と白を基調にほんの少し青が混じった素朴な格子柄で、厚手の丈夫な麻でできています。これはアルザス地方を代表する特産品でケルシュと呼ばれる布なんですって。小澤さんはケルシュの本拠地ムッターシュルツ村を訪ね、十八世紀からケルシュを織り続けている家の七代目から話を聞きます。かつては地元で栽培された植物から染料を作っていたということ、それが赤と青で、赤はカトリック、青はプロテスタントを意味し、宗教観は違ってもお互いに協調することが大切という考えを表していたのだそうです。
ドイツとの国境に近いフランス北東部にあり、長いあいだフランスとドイツの支配下を行ったり来たりして独特の文化をもつアルザス地方は、カトリックがほとんどであるフランスの中では例外的にプロテスタントが多い地方です。だからそういう言い伝えがあるんだろうなあと、子供の頃に読んだ『最後の授業』を思い出したりしました。
うちにあるケルシュは、そんなことは何も知らず、ただ撮影の小道具にしようと渋谷の雑貨店で買ったものでした。家でふだん使いにするようになったのは仕事を辞めてからで、特にコーディネートを考えたわけでもなく、汚れが目立たないからという理由で使っていたものです。でも、ただの「テーブルクロス」ではなく、ケルシュという名前があり、それを大切に守っている人たちがいると知ったとたんに、なぜかとても愛しく感じられるようになりました。小澤さんがフランスに出かけていった理由はこういうことだったんですね。
機械でも同じクオリティのものが作れるのに、伝統的な手法でキャンドルを作り続けている職人は理由を聞かれてこう答えます。「機械でつくって、ものだけが残ったとしても、人の手でつくってきたプロセスを絶やしては、もう伝統とは呼べなくなる」 うんうん、そうだよなあ。
フランス雑貨の旅
作者:小澤典代
出版社:アノニマスタジオ
ISBN:4877586369
年をとって物欲がなくなり、海外旅行をしても買って帰りたいものは本だけという状態の私なので、ふだんは雑貨の本になど興味を惹かれないのですが、これはたまたま手にとったら写真がとてもきれいだったので読んでみました。
「すてきでしょう! あなたも買いなさいよ!」という叫びが聞こえてくるような雑誌や本は苦手だけど、これはなぜか一味違いました。キャリアも長く、ある程度の年齢になっている作者が若い頃のギラギラした欲望から解き放たれているからかな。淡々とした調子で綴られる文章は、美しい写真のそばで邪魔にならず、心穏やかに読めます。
思いがけなくふだん使っているテーブルクロスと同じ布の写真が出てきたときには驚きました。赤と白を基調にほんの少し青が混じった素朴な格子柄で、厚手の丈夫な麻でできています。これはアルザス地方を代表する特産品でケルシュと呼ばれる布なんですって。小澤さんはケルシュの本拠地ムッターシュルツ村を訪ね、十八世紀からケルシュを織り続けている家の七代目から話を聞きます。かつては地元で栽培された植物から染料を作っていたということ、それが赤と青で、赤はカトリック、青はプロテスタントを意味し、宗教観は違ってもお互いに協調することが大切という考えを表していたのだそうです。
ドイツとの国境に近いフランス北東部にあり、長いあいだフランスとドイツの支配下を行ったり来たりして独特の文化をもつアルザス地方は、カトリックがほとんどであるフランスの中では例外的にプロテスタントが多い地方です。だからそういう言い伝えがあるんだろうなあと、子供の頃に読んだ『最後の授業』を思い出したりしました。
うちにあるケルシュは、そんなことは何も知らず、ただ撮影の小道具にしようと渋谷の雑貨店で買ったものでした。家でふだん使いにするようになったのは仕事を辞めてからで、特にコーディネートを考えたわけでもなく、汚れが目立たないからという理由で使っていたものです。でも、ただの「テーブルクロス」ではなく、ケルシュという名前があり、それを大切に守っている人たちがいると知ったとたんに、なぜかとても愛しく感じられるようになりました。小澤さんがフランスに出かけていった理由はこういうことだったんですね。
機械でも同じクオリティのものが作れるのに、伝統的な手法でキャンドルを作り続けている職人は理由を聞かれてこう答えます。「機械でつくって、ものだけが残ったとしても、人の手でつくってきたプロセスを絶やしては、もう伝統とは呼べなくなる」 うんうん、そうだよなあ。
フランス雑貨の旅
作者:小澤典代
出版社:アノニマスタジオ
ISBN:4877586369
by timeturner
| 2013-09-05 19:22
| 和書
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