2013年 04月 20日
英国鉄道物語 |
鉄道をめぐるさまざまな話題を楽しみながら、文豪ディケンズやコナン・ドイルを道案内に、世界で最初に鉄道の走った国、ヴィクトリア朝イギリスの鉄道と文学、鉄道と人々の暮らしとの深いかかわりを描き出す。
『Howards End』を読んでいて、ロンドンの鉄道ターミナルの話が出てくる箇所があり、いくら変らないイギリスとはいえ、現在のものとはかなり違っていていまひとつ実感がつかめないのでこの本を手にとりました。
いやあ、小池滋さんって博覧強記ですねえ。次から次へといろいろなところから話が展開して、驚くばかりです。ディケンズや漱石が出てくるのは誰にでも想像はつきますが、『大鏡』の菅原道真が引用されていたのにはびっくりしました。イギリスの鉄道の話なのに・・・。でも、ぴったりのタイミングなんですよ。
ヴィクトリア朝のイギリスにも「鉄道マニア」がいたという話にはニヤニヤ。日本で言う鉄ちゃんとは違い、鉄道株に投資した人たちのことで、実はこれに関しても『Howards End』に連想させるエピソードが出てくるのです。ジュリー叔母さんが外国株を買う姪たちに仰天して、自分のように堅実な(でも実はジリ貧)英国の鉄道株を買うよう忠告するところ。この本を読むと、それがいかに馬鹿げた忠告であるかがよりはっきりとわかります。
最初の章でイギリスにおける鉄道発展の概観を説明し、二章ではロンドンの主要ターミナルについてひとつずつ取り上げていきます。ここはイギリスで鉄道旅行をしたことのある人には相当楽しめると思う。抜かりなく地下鉄にも一章をさいていて、旅行者にとってはいちばんお世話になる公共交通機関だけにすごく興味深い。
そこかしこに散りばめられた英文学の話も興味深いのですが、第四章では「鉄道と推理小説」をテーマに話が展開されます。ここがいちばん作者の熱が入っていて面白かった。途中で何度かそうじゃないかと思い、あとがきを読んで確認したのですが、小池滋さんはもともとが鉄道マニアで、だからこういう本を書かれたのだそう。そしてもちろん19世紀英文学の専門家でもあるので、19世紀に始まったとされる推理小説と鉄道の関係となったら熱くなるのも当然です。クリスティ、ホームズ、クロフツといった有名どころはもちろん、エドマンド・クリスピンやヴィクター・L・ホワイトチャーチ、マイケル・ギルバートといったマニアックな作家の紹介もあって、またまた読みたい本がたくさんできてしまいました。
鉄道とは関係ないのですが、なるほどなあと思わされた個所を少し引用しておきます。
英国鉄道物語
作者:小池 滋
出版社:晶文社
ISBN:4794966903
『Howards End』を読んでいて、ロンドンの鉄道ターミナルの話が出てくる箇所があり、いくら変らないイギリスとはいえ、現在のものとはかなり違っていていまひとつ実感がつかめないのでこの本を手にとりました。
いやあ、小池滋さんって博覧強記ですねえ。次から次へといろいろなところから話が展開して、驚くばかりです。ディケンズや漱石が出てくるのは誰にでも想像はつきますが、『大鏡』の菅原道真が引用されていたのにはびっくりしました。イギリスの鉄道の話なのに・・・。でも、ぴったりのタイミングなんですよ。
ヴィクトリア朝のイギリスにも「鉄道マニア」がいたという話にはニヤニヤ。日本で言う鉄ちゃんとは違い、鉄道株に投資した人たちのことで、実はこれに関しても『Howards End』に連想させるエピソードが出てくるのです。ジュリー叔母さんが外国株を買う姪たちに仰天して、自分のように堅実な(でも実はジリ貧)英国の鉄道株を買うよう忠告するところ。この本を読むと、それがいかに馬鹿げた忠告であるかがよりはっきりとわかります。
最初の章でイギリスにおける鉄道発展の概観を説明し、二章ではロンドンの主要ターミナルについてひとつずつ取り上げていきます。ここはイギリスで鉄道旅行をしたことのある人には相当楽しめると思う。抜かりなく地下鉄にも一章をさいていて、旅行者にとってはいちばんお世話になる公共交通機関だけにすごく興味深い。
そこかしこに散りばめられた英文学の話も興味深いのですが、第四章では「鉄道と推理小説」をテーマに話が展開されます。ここがいちばん作者の熱が入っていて面白かった。途中で何度かそうじゃないかと思い、あとがきを読んで確認したのですが、小池滋さんはもともとが鉄道マニアで、だからこういう本を書かれたのだそう。そしてもちろん19世紀英文学の専門家でもあるので、19世紀に始まったとされる推理小説と鉄道の関係となったら熱くなるのも当然です。クリスティ、ホームズ、クロフツといった有名どころはもちろん、エドマンド・クリスピンやヴィクター・L・ホワイトチャーチ、マイケル・ギルバートといったマニアックな作家の紹介もあって、またまた読みたい本がたくさんできてしまいました。
鉄道とは関係ないのですが、なるほどなあと思わされた個所を少し引用しておきます。
だから、十九世紀に推理小説が飛躍的発展を見たのも、決して偶然ではなかろう。科学の恩恵を人びとが毎日のように痛感し、教育が急速に普及し、国民の知的水準の向上がこれまでの世紀に比べて驚異的であったこの時代にあって、推理小説は新鮮な刺激を与えてくれる娯楽であった。それに、何よりもいいことに、科学という同じ母から生れた鉄道の兄弟分であって、古い門閥も系図も伝統も持たぬこの小説は、十九世紀イギリスを支配し始めた新しい階級、中産階級と同じく、過去は持たずにただ現在と未来だけを持っていた。古典文学の素養がなくても、大学でギリシャ語やラテン語を習っていなくても、ある程度の読み書き能力と頭の働きさえあれば、誰にでも理解できる文学の一種類であった。
英国鉄道物語
作者:小池 滋
出版社:晶文社
ISBN:4794966903
by timeturner
| 2013-04-20 17:32
| 和書
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