2013年 02月 01日
傍迷惑な人々: サーバー短編集 |
オハイオ州コロンバスでダムが決壊し全住民が東に向かって逃げた日のことや父親の上にベッドが倒れてきた夜のことなど、作者の子ども時代と家族・親戚にまつわる話(家族の絆)、「ニューヨーカー」誌でサーバーと二枚看板を張っていたE.B.ホワイトほか身近にいる変人のこと(傍迷惑な人々)、妄想が止まらず暴走してしまう人たち(暴走妄想族)、そして最強の自分自身のこと(そういうぼくが実はいちばん……)。4つのカテゴリーに分けられた奇妙でおかしい人々を描いた短編20編。作者のイラスト付き。
あー、いかにも「ニューヨーカー」だなあと思わせる達者な筆運びで、なんの苦労もなくするするするっと読めてしまいます。最高におかしいのは「家族の絆」に入っている5編。見方を変えれば親族の恥をさらしているわけですが、その筆致がとてもやさしく、なつかしさにあふれているので、いやな感じはまったくありません。自分もサーバーの親戚のひとりになった気分で笑い転げることができます。
ベッドな夜
ウィルマ伯母さんの損得勘定
ダム決壊の日
幽霊の出た夜
今夜もまたまた大騒ぎ
E・B・W
誰よりもおかしな男
ツグミの巣ごもり
探しものはなんですか?
空の歩道
マクベス殺人事件
虹をつかむ男
当ててごらんと言われてもねえ…
もしグラント将軍がアポマトックスで酣酔の境地にあったとしたら、南北戦争はいかに終結していたか?
一四二号の女
伊達の薄着じゃないんだよ
第三九〇二〇九〇号の復讐
なんでも壊す男
放送本番中、緊張しないためには
本棚のうえの女
他のカテゴリーにある話は大人になってからのサーバーに関わることだけに、中には本人が苦々しく思っていることや、情けなく感じていることも出てくるので全開で笑うより、口の端をちょっと曲げてにやっとする程度になるのですが、でも、この人の悪口や批判には棘がないですね(最初の妻と思われる女性を描いた1編には少し棘が感じられたけれど)。イギリスのユーモア物によく感じる底意地の悪さを感じない。逆にその点が私には少し物足りなくも感じます。
悪妻に悩まされたり、晩年にはほとんど目が見えなくなったりと、いろいろ苦労をした人らしいのですが、それなのにこういうタッチの文章が書けるというのはすごくポジティブだと思う。あるいはこういうものを書いていたから救われたのかもしれませんね。妄想話のところなんて、半分本気が感じられるもの。文章で発散していたのかも。
訳も上手です。鋭い観察力・分析力ですくいとった矛盾や問題点を、ほのぼのしたユーモアにくるんで差し出して見せるサーバーにぴったりのやわらかい文体に、19世紀終わりから20世紀半ばにかけて生きた人らしいちょっと古めかしい漢語を適度に、でも、少しはずして挟みこむバランスが絶妙。
ところでこの人のイラスト、最初に見たときジョン・レノンみたい!と思ったのですが、あとがきを読んだら逆で、ジョンがサーバーのファンで、thurberize(ジョンの造語)されたのだそう。へえ、そうだったのか。
傍迷惑な人々: サーバー短編集 (光文社古典新訳文庫)
原題:The Thurber Collection
作者:ジェイムズ・サーバー
訳者:芹澤 恵
出版社:光文社
ISBN:4334752543
あー、いかにも「ニューヨーカー」だなあと思わせる達者な筆運びで、なんの苦労もなくするするするっと読めてしまいます。最高におかしいのは「家族の絆」に入っている5編。見方を変えれば親族の恥をさらしているわけですが、その筆致がとてもやさしく、なつかしさにあふれているので、いやな感じはまったくありません。自分もサーバーの親戚のひとりになった気分で笑い転げることができます。
ベッドな夜
ウィルマ伯母さんの損得勘定
ダム決壊の日
幽霊の出た夜
今夜もまたまた大騒ぎ
E・B・W
誰よりもおかしな男
ツグミの巣ごもり
探しものはなんですか?
空の歩道
マクベス殺人事件
虹をつかむ男
当ててごらんと言われてもねえ…
もしグラント将軍がアポマトックスで酣酔の境地にあったとしたら、南北戦争はいかに終結していたか?
一四二号の女
伊達の薄着じゃないんだよ
第三九〇二〇九〇号の復讐
なんでも壊す男
放送本番中、緊張しないためには
本棚のうえの女
他のカテゴリーにある話は大人になってからのサーバーに関わることだけに、中には本人が苦々しく思っていることや、情けなく感じていることも出てくるので全開で笑うより、口の端をちょっと曲げてにやっとする程度になるのですが、でも、この人の悪口や批判には棘がないですね(最初の妻と思われる女性を描いた1編には少し棘が感じられたけれど)。イギリスのユーモア物によく感じる底意地の悪さを感じない。逆にその点が私には少し物足りなくも感じます。
悪妻に悩まされたり、晩年にはほとんど目が見えなくなったりと、いろいろ苦労をした人らしいのですが、それなのにこういうタッチの文章が書けるというのはすごくポジティブだと思う。あるいはこういうものを書いていたから救われたのかもしれませんね。妄想話のところなんて、半分本気が感じられるもの。文章で発散していたのかも。
訳も上手です。鋭い観察力・分析力ですくいとった矛盾や問題点を、ほのぼのしたユーモアにくるんで差し出して見せるサーバーにぴったりのやわらかい文体に、19世紀終わりから20世紀半ばにかけて生きた人らしいちょっと古めかしい漢語を適度に、でも、少しはずして挟みこむバランスが絶妙。
ところでこの人のイラスト、最初に見たときジョン・レノンみたい!と思ったのですが、あとがきを読んだら逆で、ジョンがサーバーのファンで、thurberize(ジョンの造語)されたのだそう。へえ、そうだったのか。
傍迷惑な人々: サーバー短編集 (光文社古典新訳文庫)
原題:The Thurber Collection
作者:ジェイムズ・サーバー
訳者:芹澤 恵
出版社:光文社
ISBN:4334752543
by timeturner
| 2013-02-01 17:41
| 和書
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