2012年 11月 24日
黄金の壺/マドモワゼル・ド・スキュデリ |
美しい金緑色の蛇に恋した大学生アンゼルムスの冒険を描く「黄金の壼」、ルイ14世治世下の連続強盗殺人事件を老女流詩人が解決に導く「マドモワゼル・ド・スキュデリ」のほか短編2編収録。
名前は聞いたことがありましたが読むのは初めてのホフマン。経歴を見るとなんともまあ多芸多才な本物の天才だったんですね。法学の勉強をしながら作曲や楽器演奏、絵画をたしなみ、判事から南プロイセン政庁参事官へと出世。政変のために失職した後は劇場音楽監督、支配人補佐、作曲家、演出家として劇場音楽の世界で成功。その後作家活動も開始して流行作家となり、ベルリン大審院判事に復職。この人の伝記のほうが数奇な内容かもしれない。
「黄金の壷」はきらびやかなイメージが全体に散りばめられ、いかにも幻想的な物語です。火の精だの緑色の蛇に姿を変えた美女だの、使い魔の猫をつれた魔女だのが出てきて波乱万丈と思えるのですが、意外にあっさりとおさまるところにおさまってしまう。ちょっと不思議なしめくくりでした。どちらかというとシェイクスピアの恋愛喜劇を見たような印象が残る。登場人物は手をふりしぼらんばかりに嘆いたり、恋焦がれたりするんですが、決して重く深刻にはならず、ほんわかした雰囲気。19世紀初頭のドレスデンの風物が描かれているのも魅力的。
「マドモワゼル・ド・スキュデリ」にはこの前読んだ『火刑法廷』の由来ともなった17世紀フランスの火刑裁判所の話が出てきますし、悪魔と関係があるとしか思えない連続強盗殺人一味の神出鬼没ぶりからオカルトっぽい話なのかと思っていると、ちゃんと論理的な謎解きが用意されていたり、マドモワゼル・ド・スキュデリがミス・マープルのような活躍をするのかと思っていると、案外そうでもなかったり、最初から最後までこちらの思惑をはずしながら、それでも面白く読ませてくれました。特に、当時の司法制度を説明するための前ふりにすぎないと思われた毒殺魔たちの話が、後半になって金細工師に取り憑いた悪霊と重なって不気味な影を作品全体に投げかけるあたりはとてもいい。
「ドン・ファン」と「クライスレリアーナ」はどちらも音楽家としてのホフマンの音楽的霊感に関するエッセイ的な性格ももつ短編で、彼が音楽とどう向き合っていたのか想像できるような内容です。それにしても、論理的思考と実務家としての手腕が必要とされる法律家でありながら、幻想的な物語を書き、音楽家としての感性も持ちえたホフマンという人、とても興味深いです。
黄金の壺/マドモワゼル・ド・スキュデリ (光文社古典新訳文庫)
原題:Der Goldne Topf
作者:ホフマン
訳者:大島かおり
出版社:光文社
ISBN:4334751776
名前は聞いたことがありましたが読むのは初めてのホフマン。経歴を見るとなんともまあ多芸多才な本物の天才だったんですね。法学の勉強をしながら作曲や楽器演奏、絵画をたしなみ、判事から南プロイセン政庁参事官へと出世。政変のために失職した後は劇場音楽監督、支配人補佐、作曲家、演出家として劇場音楽の世界で成功。その後作家活動も開始して流行作家となり、ベルリン大審院判事に復職。この人の伝記のほうが数奇な内容かもしれない。
「黄金の壷」はきらびやかなイメージが全体に散りばめられ、いかにも幻想的な物語です。火の精だの緑色の蛇に姿を変えた美女だの、使い魔の猫をつれた魔女だのが出てきて波乱万丈と思えるのですが、意外にあっさりとおさまるところにおさまってしまう。ちょっと不思議なしめくくりでした。どちらかというとシェイクスピアの恋愛喜劇を見たような印象が残る。登場人物は手をふりしぼらんばかりに嘆いたり、恋焦がれたりするんですが、決して重く深刻にはならず、ほんわかした雰囲気。19世紀初頭のドレスデンの風物が描かれているのも魅力的。
「マドモワゼル・ド・スキュデリ」にはこの前読んだ『火刑法廷』の由来ともなった17世紀フランスの火刑裁判所の話が出てきますし、悪魔と関係があるとしか思えない連続強盗殺人一味の神出鬼没ぶりからオカルトっぽい話なのかと思っていると、ちゃんと論理的な謎解きが用意されていたり、マドモワゼル・ド・スキュデリがミス・マープルのような活躍をするのかと思っていると、案外そうでもなかったり、最初から最後までこちらの思惑をはずしながら、それでも面白く読ませてくれました。特に、当時の司法制度を説明するための前ふりにすぎないと思われた毒殺魔たちの話が、後半になって金細工師に取り憑いた悪霊と重なって不気味な影を作品全体に投げかけるあたりはとてもいい。
「ドン・ファン」と「クライスレリアーナ」はどちらも音楽家としてのホフマンの音楽的霊感に関するエッセイ的な性格ももつ短編で、彼が音楽とどう向き合っていたのか想像できるような内容です。それにしても、論理的思考と実務家としての手腕が必要とされる法律家でありながら、幻想的な物語を書き、音楽家としての感性も持ちえたホフマンという人、とても興味深いです。
黄金の壺/マドモワゼル・ド・スキュデリ (光文社古典新訳文庫)
原題:Der Goldne Topf
作者:ホフマン
訳者:大島かおり
出版社:光文社
ISBN:4334751776
by timeturner
| 2012-11-24 18:43
| 和書
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