2012年 10月 28日
夢の遠近法 山尾悠子初期作品選 |
山尾悠子が二十代に執筆した短編小説の中から著者みずからが選んだ11編を収録。巻末には書き下ろしの「自作解説」、付録に単行本初収録エッセイ4編。
これほどの完成度なのだから初期作品とは言っても二十代後半くらい?なんて思っていたらまあ、とんでもない、処女作の「夢の棲む街」はなんと二十歳のときですって。いやもう、天才ってこういうものなんですね。
とはいえ、大学生の視点で京都を描いた「月蝕」や「天使論」あたりには確かに若々しさが漂っているし、「ムーンゲイト」は若い女の子が好きそうな幻想ファンタジーの要素がてんこ盛りだし、「私はその男にハンザ街で出会った」には今だったら選ばないだろうなと思える言葉や言い回しが使われていたりしますが(解説によるとこの作品は下書きなしのぶっつけで、ひと晩で書き上げたものだそう)。いや、だからといって若書きだなどと生意気なことを言うつもりは毛頭ありません。
ポール・デルヴォーやルネ・マグリットといったシュールレアリズム画家の絵の中に導き入れられるような気持ちを感じるのも特長です。「夢の棲む街」「遠近法」「透明族に関するエスキス」などでは特にそうでした。小説を読んでいて映画を見ているみたいと感じる場合もありますが、山尾悠子の場合はなぜか絵画。どうしてだろう?
そして特に好きなのもそういうタイプの話。《腸詰宇宙》あるいは《内臓宇宙》と呼ばれる円筒形の世界を描く「遠近法」が断トツに好きで、この世界観はもう体の中にしみこんでしまっているので、しばらくして話の内容は思い出せなくなっても、「どこかでこんな絵を見たことがあるなあ」と折に触れて思い出すだろうという気がする。本人が影響を受けていると明言しているボルヘスの「バベルの図書館」は何度読んでも途中で頭がぐちゃぐちゃになってしまうのですが、こちらはすっきり理解できるのもうれしい。
《夢喰い虫》バクが棲むすり鉢状の街の話「夢の棲む街」も、胎児のような姿をした空気よりも軽い透明族が風に吹かれて街路や側溝の水の中を流されていく「透明族に関するエスキス」は気持ち悪いけれど妙に惹かれます。「童話・支那風小夜曲集」にはラテンアメリカの幻想文学風の味わいがある。日本人にとってのエキゾチズムのせいかな。
付録は別刷り16ページに細かい文字でぎっしり印刷されていて、お得感がいっぱい。エッセイとはいっても作者が「小説もどき」と書いてあるように、ほとんど短編小説の体裁です。
夢の遠近法 山尾悠子初期作品選
作者:山尾悠子
出版社:国書刊行会
ISBN:4336052832
これほどの完成度なのだから初期作品とは言っても二十代後半くらい?なんて思っていたらまあ、とんでもない、処女作の「夢の棲む街」はなんと二十歳のときですって。いやもう、天才ってこういうものなんですね。
とはいえ、大学生の視点で京都を描いた「月蝕」や「天使論」あたりには確かに若々しさが漂っているし、「ムーンゲイト」は若い女の子が好きそうな幻想ファンタジーの要素がてんこ盛りだし、「私はその男にハンザ街で出会った」には今だったら選ばないだろうなと思える言葉や言い回しが使われていたりしますが(解説によるとこの作品は下書きなしのぶっつけで、ひと晩で書き上げたものだそう)。いや、だからといって若書きだなどと生意気なことを言うつもりは毛頭ありません。
夢の棲む街この人の言葉の選び方、つなげ方には読者の生理的な快感をかきたてるものがありますね。見慣れない漢語・単語がしばしば使われるけれど、そうした言葉が目の前を素通りせず、頭の中にイメージをつぎつぎ紡ぎ出してくれる。翻訳作品などでときどき感じる、暴走族のチーム名を見てしまったような違和感はまったく感じないし、小難しくて読む気が失せるということもない。文脈の中にいかにうまく溶け込んでいるか、そのバランス感覚なんでしょうね。
月蝕
ムーンゲイト
遠近法
童話・支那風小夜曲集
透明族に関するエスキス
私はその男にハンザ街で出会った
傳説
月齢
眠れる美女
天使論
ポール・デルヴォーやルネ・マグリットといったシュールレアリズム画家の絵の中に導き入れられるような気持ちを感じるのも特長です。「夢の棲む街」「遠近法」「透明族に関するエスキス」などでは特にそうでした。小説を読んでいて映画を見ているみたいと感じる場合もありますが、山尾悠子の場合はなぜか絵画。どうしてだろう?
そして特に好きなのもそういうタイプの話。《腸詰宇宙》あるいは《内臓宇宙》と呼ばれる円筒形の世界を描く「遠近法」が断トツに好きで、この世界観はもう体の中にしみこんでしまっているので、しばらくして話の内容は思い出せなくなっても、「どこかでこんな絵を見たことがあるなあ」と折に触れて思い出すだろうという気がする。本人が影響を受けていると明言しているボルヘスの「バベルの図書館」は何度読んでも途中で頭がぐちゃぐちゃになってしまうのですが、こちらはすっきり理解できるのもうれしい。
《夢喰い虫》バクが棲むすり鉢状の街の話「夢の棲む街」も、胎児のような姿をした空気よりも軽い透明族が風に吹かれて街路や側溝の水の中を流されていく「透明族に関するエスキス」は気持ち悪いけれど妙に惹かれます。「童話・支那風小夜曲集」にはラテンアメリカの幻想文学風の味わいがある。日本人にとってのエキゾチズムのせいかな。
付録は別刷り16ページに細かい文字でぎっしり印刷されていて、お得感がいっぱい。エッセイとはいっても作者が「小説もどき」と書いてあるように、ほとんど短編小説の体裁です。
人形の棲処なにはともあれ、山尾悠子は日本の宝ですね。これほど内からあふれ出るイマジネーションをもちながら、どうして十数年も沈黙していられたのだろう。
頌春館の話
チキン嬢の家
ラヴクラフトとその偽作集団
夢の遠近法 山尾悠子初期作品選
作者:山尾悠子
出版社:国書刊行会
ISBN:4336052832
by timeturner
| 2012-10-28 21:37
| 和書
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