2012年 09月 10日
ゴースト・ハント |
幽霊屋敷訪問の様子を実況するラジオ番組のアナウンサーが専門家を伴って訪れたのは、数えきれないほどの自殺者を出したという来歴のある屋敷だった・・・。表題作の「ゴースト・ハント」をはじめ、本邦初訳作5篇を含む怪奇短編小説18篇。
それほど期待していなかったんですが、さすがに代表作と呼ばれる「ゴースト・ハント」は怖いですね。ラジオのアナウンサーが大勢のリスナーが聞いている前で刻々とおかしくなっていくという展開は神技だと思う。同様に呪われた館の話である「赤い館」も、読んでいるほうが登場人物ののんきぶりにいらいらして、「早く逃げろ!」と心の中で思わず叫んでしまうようなたたみかけ方が巧い。
これまで読んできた怪奇短編集の中でいちばん楽しめたかもしれない。今まで読んだ一昔前の怪奇小説って(ヴィクトリア朝のゴシック小説はそうでもないけど)、頭の中が妄想でごちゃごちゃになった人がトランス状態で書いたんじゃないかと思えるものが多かった。その妄執みたいなもののほうが怖くて、作品自体はよくわからなくてすっきりしないというような。もちろん、そういう作品でも怖かったり面白かったりはするんですが、決して「理性的」という印象はなかった。
でも、ウェイクフィールドの場合は、理性的で頭のいい作家がきちんとプロットを考え、文章を練り、読者を楽しませようと書いている作品として読める。ほのかなウィットもあって、単なる幽霊譚ではない。家に悪霊がとりつく話が好みのようではありますが、それぞれに趣向がこらしてあるし、それ以外のものは一口にゴースト・ストーリーとくくってしまうのは無理なほどバラエティに富んでいます。
ヒッチコックの「鳥」のような「不死鳥」、怪奇小説というよりはサイコサスペンスに近い「死の勝利」、SF風の「蜂の死」、「チャレルの谷」はフォースターの『インドへの道』を思い出させたし、「ポーナル教授の見損じ」ではナボコフの『ディフェンス』を思い出しました。チェスというものは人を狂気に追いやるのか、チェスの名人には狂人と紙一重の部分があるのか・・・。
日本人が出てくる話(“彼の者、詩人なれば……”)がひとつあって、なかなか面白いのですが、出てくる日本人の名前がカトウとゴネサラ。ゴネサラって・・・。
ゴースト・ハント
作者:H・R・ウェイクフィールド
企画編集:藤原編集室
訳者:鈴木克昌ほか
出版社:東京創元社
ISBN:4488578039
それほど期待していなかったんですが、さすがに代表作と呼ばれる「ゴースト・ハント」は怖いですね。ラジオのアナウンサーが大勢のリスナーが聞いている前で刻々とおかしくなっていくという展開は神技だと思う。同様に呪われた館の話である「赤い館」も、読んでいるほうが登場人物ののんきぶりにいらいらして、「早く逃げろ!」と心の中で思わず叫んでしまうようなたたみかけ方が巧い。
赤い館(訳:西崎 憲)「湿ったシーツ」」は『怪奇小説の世紀 第1巻 夢魔の家』に、「チャレルの谷」は『怪奇小説の世紀 第2巻 がらんどうの男』で既読。
ポーナル教授の見損じ(訳:倉阪鬼一郎)
ケルン(訳:西崎 憲)
ゴースト・ハント(訳:西崎 憲)
湿ったシーツ(訳:倉阪鬼一郎)
“彼の者現れて後去るべし”(訳:鈴木克昌)
“彼の者、詩人なれば……”(訳:倉阪鬼一郎)
目隠し遊び(訳:南條竹則)
見上げてごらん(訳:南條竹則)
中心人物(訳:倉阪鬼一郎)
通路(訳:鈴木克昌)
最初の一束(訳:西崎 憲)
暗黒の場所(訳:今本 渉)
死の勝利(訳:倉阪鬼一郎)
悲哀の湖(訳:西崎 憲)
チャレルの谷(訳:西崎 憲)
不死鳥(訳:倉阪鬼一郎)
蜂の死(訳:今本 渉)
これまで読んできた怪奇短編集の中でいちばん楽しめたかもしれない。今まで読んだ一昔前の怪奇小説って(ヴィクトリア朝のゴシック小説はそうでもないけど)、頭の中が妄想でごちゃごちゃになった人がトランス状態で書いたんじゃないかと思えるものが多かった。その妄執みたいなもののほうが怖くて、作品自体はよくわからなくてすっきりしないというような。もちろん、そういう作品でも怖かったり面白かったりはするんですが、決して「理性的」という印象はなかった。
でも、ウェイクフィールドの場合は、理性的で頭のいい作家がきちんとプロットを考え、文章を練り、読者を楽しませようと書いている作品として読める。ほのかなウィットもあって、単なる幽霊譚ではない。家に悪霊がとりつく話が好みのようではありますが、それぞれに趣向がこらしてあるし、それ以外のものは一口にゴースト・ストーリーとくくってしまうのは無理なほどバラエティに富んでいます。
ヒッチコックの「鳥」のような「不死鳥」、怪奇小説というよりはサイコサスペンスに近い「死の勝利」、SF風の「蜂の死」、「チャレルの谷」はフォースターの『インドへの道』を思い出させたし、「ポーナル教授の見損じ」ではナボコフの『ディフェンス』を思い出しました。チェスというものは人を狂気に追いやるのか、チェスの名人には狂人と紙一重の部分があるのか・・・。
日本人が出てくる話(“彼の者、詩人なれば……”)がひとつあって、なかなか面白いのですが、出てくる日本人の名前がカトウとゴネサラ。ゴネサラって・・・。
ゴースト・ハント
作者:H・R・ウェイクフィールド
企画編集:藤原編集室
訳者:鈴木克昌ほか
出版社:東京創元社
ISBN:4488578039
by timeturner
| 2012-09-10 19:47
| 和書
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