2012年 08月 29日
めぐりあう時間たち |
1923年のロンドン郊外のリッチモンド。作家ヴァージニアは心の病のために都会の喧騒を離れ、『ダロウェイ夫人』を執筆していた。1951年のロサンジェルス。『ダロウェイ夫人』を愛読する妊娠中のローラは、理想の妻を演じることに疲れながらも、夫の誕生パーティのために息子とケーキを作り始める。2001年のニューヨーク。『ダロウェイ夫人』の主人公と同じ名前の編集者クラリッサは、かつての恋人でエイズ患者のリチャードが文学賞を受賞したことを祝うパーティの準備に忙しかった。
ヴァージニア・ウルフの『ダロウェイ夫人』を主軸に、時代によって隔てられた3人の女性たちがそれぞれの人生を生きる一日を綴ったマイケル・カニンガムの小説『The Hours めぐりあう時間たち 三人のダロウェイ夫人』の映画化。
公開されたとき、豪華な女優陣に惹かれはしたのですが、難解だという評判(?)におそれをなし、避けてしまいました。そして10年。今まで待ってよかった! 10年前の私にはこの映画を見る準備はまだできていませんでした。というか、つい一月前までできていなかった。
ここのところ『ダロウェイ夫人』はもちろんのこと、ウルフに関する本を何冊か読み、ヴァージニア・ウルフなんかこわくない、まではいかないけど、ウルフってけっこう興味深いかも、程度までには彼女に近づいていた今だからこそこれほど楽しめたのだと思います。
とにかく美しい。ヴィジュアル的にもですが、三人の女優と名脇役たちの演技のアンサンブルの美しさ、見事に構成された脚本の美しさ、『ダロウェイ夫人』から、あるいは原作から、あるいは脚本家のオリジナルとして語られるセリフの美しさ、三人の女性の人生が繊細なレース編みのように織り交ぜられ、ひとつになっていく流れの美しさ、それに音楽も美しい。
初めのうち、ニコール・キッドマンはどこに出てるんだ?と思ってしまいました。それほどヴァージニア・ウルフになりきっていた。というか、メイクだけでこんなに顔が変わるもの?と思っていたら、やっぱり鼻はつけ鼻だったらしい。でも、それ以外の顔の部品も全部ちがうふうに見えるんですけど・・・。コメンタリーで原作者のマイケル・カニンガムがため息をつきながら「どうしてこんなに dignified な表情ができるんだろう」と言っていましたが、本当にウルフが乗り移ったみたいで、初めてニコール・キッドマンの女優としての実力を認識しました。これまでは美人なだけかと思ってたもので。イギリス英語の発音はもちろんのこと、声の出し方まで違っていて、ウルフが吹き替えたんじゃないかと思うほどです(ウルフの生声を聞いたことはないけど)。
エド・ハリス演じるリチャードは、『ダロウェイ夫人』のセプティマスを体現する人物で、それと同時にピーター・ウォルシュ(基本的にはリチャードのかつてのゲイの恋人ルイスがウォルシュだと思うのですが)やダロウェイ氏の性格も少しずつ混ぜ込まれていて、とても興味深い。セプティマスより大人の男、でも、心の奥深くに少年が潜んでいる男で、セクシーでありながら母性愛も刺激するという、もうとんでもないキャラクターでした。表面的にはエイズで体はボロボロのメイクをされているのですから、奇蹟のような演技力です。メリル・ストリープは彼の目を「Burning Blue Stare」と表現していましたが、なるほど確かにその通り。原作者は自分が書いたリチャードのイメージと少し違っていたと語っていましたが、だからといって不満ではないみたいでした。
ルイス(こっちが本来のピーター・ウォルシュ)役のジェフ・ブリッジスが太って別人になっていたのには驚いた。それでもまだかつての二枚目の香りを漂わせているところが、役柄に合っていて、キャスティング・ディレクターはすごいと思った。
監督は寡作の人で、単独で作った長編映画はたった4作。本作品のほかは「リトル・ダンサー」「愛を読むひと」「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」の3つって、天才じゃない? というか、私好みの監督なんだな。
でも、こうして並べてみると、そして原作を読んだあとで考えると、「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」はこの監督にしては妥協してるな、という感じ。ハリウッド大作で、ハリウッドのドル箱スターを起用となると、そうそう自分の好きなようにはできないんでしょうか。
逆にこっちの映画は誰にでも勧められる作品とは言えない。観るなら『ダロウェイ夫人』を読んでおいたほうが絶対いいと思う。というか、読んでないと意味不明すぎるはず。逆に、原作は読んでなくても大丈夫なんじゃないかな。
原題:The Hours(2002)
上映時間:115 分
製作国:アメリカ
監督:スティーヴン・ダルドリー
出演:ニコール・キッドマン、ジュリアン・ムーア、メリル・ストリープ、スティーヴン・ディレイン、ミランダ・リチャードソン、ジョージ・ロフタス、ジョン・C・ライリー、トニ・コレット、エド・ハリス、アリソン・ジャネイ、クレア・デインズ、ジェフ・ダニエルズ、アイリーン・アトキンス、リンゼイ・マーシャル、リンダ・バセット、クリスチャン・コールソン、マーゴ・マーティンデイル、ダニエル・ブロックルバンク、ジャック・ロヴェロほか。
ヴァージニア・ウルフの『ダロウェイ夫人』を主軸に、時代によって隔てられた3人の女性たちがそれぞれの人生を生きる一日を綴ったマイケル・カニンガムの小説『The Hours めぐりあう時間たち 三人のダロウェイ夫人』の映画化。
公開されたとき、豪華な女優陣に惹かれはしたのですが、難解だという評判(?)におそれをなし、避けてしまいました。そして10年。今まで待ってよかった! 10年前の私にはこの映画を見る準備はまだできていませんでした。というか、つい一月前までできていなかった。
ここのところ『ダロウェイ夫人』はもちろんのこと、ウルフに関する本を何冊か読み、ヴァージニア・ウルフなんかこわくない、まではいかないけど、ウルフってけっこう興味深いかも、程度までには彼女に近づいていた今だからこそこれほど楽しめたのだと思います。
とにかく美しい。ヴィジュアル的にもですが、三人の女優と名脇役たちの演技のアンサンブルの美しさ、見事に構成された脚本の美しさ、『ダロウェイ夫人』から、あるいは原作から、あるいは脚本家のオリジナルとして語られるセリフの美しさ、三人の女性の人生が繊細なレース編みのように織り交ぜられ、ひとつになっていく流れの美しさ、それに音楽も美しい。
初めのうち、ニコール・キッドマンはどこに出てるんだ?と思ってしまいました。それほどヴァージニア・ウルフになりきっていた。というか、メイクだけでこんなに顔が変わるもの?と思っていたら、やっぱり鼻はつけ鼻だったらしい。でも、それ以外の顔の部品も全部ちがうふうに見えるんですけど・・・。コメンタリーで原作者のマイケル・カニンガムがため息をつきながら「どうしてこんなに dignified な表情ができるんだろう」と言っていましたが、本当にウルフが乗り移ったみたいで、初めてニコール・キッドマンの女優としての実力を認識しました。これまでは美人なだけかと思ってたもので。イギリス英語の発音はもちろんのこと、声の出し方まで違っていて、ウルフが吹き替えたんじゃないかと思うほどです(ウルフの生声を聞いたことはないけど)。
エド・ハリス演じるリチャードは、『ダロウェイ夫人』のセプティマスを体現する人物で、それと同時にピーター・ウォルシュ(基本的にはリチャードのかつてのゲイの恋人ルイスがウォルシュだと思うのですが)やダロウェイ氏の性格も少しずつ混ぜ込まれていて、とても興味深い。セプティマスより大人の男、でも、心の奥深くに少年が潜んでいる男で、セクシーでありながら母性愛も刺激するという、もうとんでもないキャラクターでした。表面的にはエイズで体はボロボロのメイクをされているのですから、奇蹟のような演技力です。メリル・ストリープは彼の目を「Burning Blue Stare」と表現していましたが、なるほど確かにその通り。原作者は自分が書いたリチャードのイメージと少し違っていたと語っていましたが、だからといって不満ではないみたいでした。
ルイス(こっちが本来のピーター・ウォルシュ)役のジェフ・ブリッジスが太って別人になっていたのには驚いた。それでもまだかつての二枚目の香りを漂わせているところが、役柄に合っていて、キャスティング・ディレクターはすごいと思った。
監督は寡作の人で、単独で作った長編映画はたった4作。本作品のほかは「リトル・ダンサー」「愛を読むひと」「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」の3つって、天才じゃない? というか、私好みの監督なんだな。
でも、こうして並べてみると、そして原作を読んだあとで考えると、「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」はこの監督にしては妥協してるな、という感じ。ハリウッド大作で、ハリウッドのドル箱スターを起用となると、そうそう自分の好きなようにはできないんでしょうか。
逆にこっちの映画は誰にでも勧められる作品とは言えない。観るなら『ダロウェイ夫人』を読んでおいたほうが絶対いいと思う。というか、読んでないと意味不明すぎるはず。逆に、原作は読んでなくても大丈夫なんじゃないかな。
原題:The Hours(2002)
上映時間:115 分
製作国:アメリカ
監督:スティーヴン・ダルドリー
出演:ニコール・キッドマン、ジュリアン・ムーア、メリル・ストリープ、スティーヴン・ディレイン、ミランダ・リチャードソン、ジョージ・ロフタス、ジョン・C・ライリー、トニ・コレット、エド・ハリス、アリソン・ジャネイ、クレア・デインズ、ジェフ・ダニエルズ、アイリーン・アトキンス、リンゼイ・マーシャル、リンダ・バセット、クリスチャン・コールソン、マーゴ・マーティンデイル、ダニエル・ブロックルバンク、ジャック・ロヴェロほか。
by timeturner
| 2012-08-29 22:32
| 映画
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