2012年 08月 10日
光 |
都会から少し離れた、山に囲まれた湖のある町。小学四年生の利一は、仲間たちとともに、わくわくするような毎日を送っていた。真っ赤に染まった小川の水、湖から魚がいなくなった本当の理由と人魚伝説、秘密の洞窟・・・。
書き下ろしかと思っていたのですが、七つの章は雑誌に連載されていたもののようです。でも、連載小説にありがちなダブリや水増し感など皆無で、最初から最後まで緊密に織りなされたプロットにもっていかれました。初めのうちはいかにも田舎の小学生っぽいのほほんとした出来事を追っていたのに、だんだんとシリアスに、デンジャレスになっていって、最終章はもう手に汗にぎる興奮の嵐です。
でもねえ、この本の良さはそういったエンターテインメント性だけじゃないんですよね。私にはこの本に出てくる子どもたちのような経験はまったくない。都会育ちだから野山を走り回ったこともないし、そもそも体が弱くて走ったりできないし、そうやって遊びまわる友達もいなかった。
そんな私でも、この本を読むことで自分が知らなかった子ども時代を生きることができる。そしてそれはとても心地よい。やり直したいとかそういうのじゃなくて、本を読むことでそういうひとときが得られるって幸せだなあと思う。
それぞれの章の終わりにゴシックで印刷された部分があり、書き手が変わるんですが、これは余分なんじゃないかと内心思っていました。が、最後まで読んでみたらなんとまあ見事に構成されていたこと。本当に達者な作家ですねえ。
ところで、文中にフィリパ・ピアスの少年少女向け小説に出てきた「嘘」という漢字について語る部分があります。『トムは真夜中の庭で』に「うそ」は何度か出てくるけれど、ルビ付きの「嘘」は出てこなかった。『真夜中のパーティー』は手元にないので確認できないけれど、「嘘」なんて出てこなかったような気がする。ということは、読んでいない『まぼろしの小さい犬』かなあ。犬という共通点もあるし。
『向日葵の咲かない夏』がうちのほうの図書館のヤングアダルト棚にあるのを見て、あんな怖い話を子どもに読ませるのかと驚いたのですが、そもそも道尾秀介という作家は児童文学~ヤングアダルト作家なのかしらとこれを読んで気付きました。遅すぎる?
光
作者:道尾秀介
出版社:光文社
ISBN:4334928277
書き下ろしかと思っていたのですが、七つの章は雑誌に連載されていたもののようです。でも、連載小説にありがちなダブリや水増し感など皆無で、最初から最後まで緊密に織りなされたプロットにもっていかれました。初めのうちはいかにも田舎の小学生っぽいのほほんとした出来事を追っていたのに、だんだんとシリアスに、デンジャレスになっていって、最終章はもう手に汗にぎる興奮の嵐です。
でもねえ、この本の良さはそういったエンターテインメント性だけじゃないんですよね。私にはこの本に出てくる子どもたちのような経験はまったくない。都会育ちだから野山を走り回ったこともないし、そもそも体が弱くて走ったりできないし、そうやって遊びまわる友達もいなかった。
そんな私でも、この本を読むことで自分が知らなかった子ども時代を生きることができる。そしてそれはとても心地よい。やり直したいとかそういうのじゃなくて、本を読むことでそういうひとときが得られるって幸せだなあと思う。
それぞれの章の終わりにゴシックで印刷された部分があり、書き手が変わるんですが、これは余分なんじゃないかと内心思っていました。が、最後まで読んでみたらなんとまあ見事に構成されていたこと。本当に達者な作家ですねえ。
ところで、文中にフィリパ・ピアスの少年少女向け小説に出てきた「嘘」という漢字について語る部分があります。『トムは真夜中の庭で』に「うそ」は何度か出てくるけれど、ルビ付きの「嘘」は出てこなかった。『真夜中のパーティー』は手元にないので確認できないけれど、「嘘」なんて出てこなかったような気がする。ということは、読んでいない『まぼろしの小さい犬』かなあ。犬という共通点もあるし。
『向日葵の咲かない夏』がうちのほうの図書館のヤングアダルト棚にあるのを見て、あんな怖い話を子どもに読ませるのかと驚いたのですが、そもそも道尾秀介という作家は児童文学~ヤングアダルト作家なのかしらとこれを読んで気付きました。遅すぎる?
光
作者:道尾秀介
出版社:光文社
ISBN:4334928277
by timeturner
| 2012-08-10 19:21
| 和書
|
Comments(2)
Commented
by
さやか
at 2012-08-14 14:42
x
つい最近、読みました。最後はもうドキドキですよね。道尾作品のいやな感じ(ほめてます)がなくて、そこがちょっと残念でしたが。
ちゃんと発表順に追ってないですが、以前は本格ミステリを骨格にした小説が多かったように思います。そのころのだと『カラスの親指』が好き。最近の作風だと『光媒の花』がよかったです。
道尾さんはトマス・H・クックがお好きだそうで(翻訳が待ちきれずに原書でも読んでいるらしい)、クックの作品に通じるものを感じます。クックは完全に大人向けだけど、道尾さんのはもっと若い年代でも読める感じかな。
ちゃんと発表順に追ってないですが、以前は本格ミステリを骨格にした小説が多かったように思います。そのころのだと『カラスの親指』が好き。最近の作風だと『光媒の花』がよかったです。
道尾さんはトマス・H・クックがお好きだそうで(翻訳が待ちきれずに原書でも読んでいるらしい)、クックの作品に通じるものを感じます。クックは完全に大人向けだけど、道尾さんのはもっと若い年代でも読める感じかな。
0
Commented
by
timeturner at 2012-08-14 16:16
さやかさんが好きなタッチの道尾作品はおそらく私は苦手だと思うのですが、これなんかはごく普通に感動できて、ふところの深さを感じました。これからどんどんいろんなものが書ける人ですよね。
彼のツイートを読んでると書くスピードと集中力がすごいし、本も読んで音楽も聴いてとものすごく密度の濃い生活をしている。能力はもちろんですが、やっぱり若さだなあとつくづく感じます。
彼のツイートを読んでると書くスピードと集中力がすごいし、本も読んで音楽も聴いてとものすごく密度の濃い生活をしている。能力はもちろんですが、やっぱり若さだなあとつくづく感じます。