2011年 11月 19日
英国建築物語 |
「一国の歴史を目に見えるかたちで理解するのに、建築ほど重要なものはない」と語る著者が、原初の人々が石や枝で作った粗末な小屋から中世のカテドラル、王侯貴族の宮殿まで、イギリスにどのような建物がどのようにして現われ、消えていったのかを職人たちの知恵と素材の探求を通して語る。
授業では物足りなかった部分、駆け足になってしまった部分もこの本を読めばきっちり埋めることができるのでありがたかった。
ところで、アングロ・サクソン時代のホールと呼ばれる木造の館の描写を読んでいたら(木造なのでこの後のノルマン侵攻によって焼かれてしまい残っているものはない)、映画「ロード・オブ・ザ・リング」に出てくるエドラスの黄金館(The Golden Hall)をまざまざと思い出してしまいました。そういえばエドラスの武具や馬具などはみな、アングロサクソン風に作られていましたっけ。こういう建築の知識ももった上であの映画を見直すとさらに新たな発見がありそうです。
翻訳は見事なまでの逐語訳で、ここまで来ると下手に小細工をされるよりも元の文章がはっきりわかって親切かもしれない。でも、読みにくいこと限りなし。以下の文章なんて機械翻訳で和文英訳したら、かなりの精度で原文に近いものが出てくるんじゃないかと思えます。
イギリスの街を歩いていると半地下の部屋がある家をよく見かけるのですが、あれは地下室でも自然光が入るようにするための工夫かと思っていました。ところがどうやら、ロンドン大火災の後、クリストファー・レンに代表される後期ルネッサンス様式の建築では、正面入口のポーティコを立派に見せるため階段をつけたのですが、階段をつけるためには家の1階部分を上げなくてはならず、そのために半地下を造って土台にしたらしい。いやあ、聞いてみないとわからないことってあるんですね。
窓枠を持ち上げて窓を開ける、いわゆるサッシュ・ウィンドウはオレンジ公ウイリアムがオランダから持ち込んだ技だとか、14世紀に黒死病でそれまでの技術をもっていた職人や大工が死んでしまったためにゴシック様式が生れたとか、ノルマン建築というのは実はノルマン風でもなんでもないとか、へえっ!と思うようなことがなんの衒いもなくさらっと書かれています。
この本の内容をすべてしっかり頭に入れることができたら、イギリスに関する小説を読んでも映画を見ても、これまで以上の情報を取得できるはずなんですが(例えば小説の中で家の描写があった場合、それがいつ頃に建てられたもので、どういう階級の人が住んだものかなどがわかる)、専門用語が多くて読んだそばから忘れてしまうのでなかなか難しいです。
英国建築物語
原題:The Story of English Architecture
作者:ヒュー・ブラウン
訳者:小野悦子
出版社:晶文社
ISBN:4794958994
第一章 建築のはじまりわざわざ章立てを書き出したのは、オックスフォードで受けたイギリスにおける建築の歴史の授業みたいだったから。もちろん年代順に書いてあるのだから同じになって当然なんですが、例として出されたものや素材と建築技法に重点を置く解説がそっくりなのです。あの先生、この本を参考にしたな。
第二章 アングロ・サクソン人
第三章 修道僧たちの建物
第四章 城の登場
第五章 村の教会
第六章 「ノルマン」建築
第七章 ゴシック建築
第八章 中世の人びとはいかに暮していたか
第九章 テューダー朝の建築
第十章 イングランドのヨーマン
第十一章 グレイト・ハウスが国中を覆う
第十二章 新しい様式をもたらした建築家たち
第十三章 イングランドのルネッサンス建築
第十四章 ジョージアンのイングランド
第十五章 ヴィクトリア朝の建築
第十六章 今日の建築
授業では物足りなかった部分、駆け足になってしまった部分もこの本を読めばきっちり埋めることができるのでありがたかった。
ところで、アングロ・サクソン時代のホールと呼ばれる木造の館の描写を読んでいたら(木造なのでこの後のノルマン侵攻によって焼かれてしまい残っているものはない)、映画「ロード・オブ・ザ・リング」に出てくるエドラスの黄金館(The Golden Hall)をまざまざと思い出してしまいました。そういえばエドラスの武具や馬具などはみな、アングロサクソン風に作られていましたっけ。こういう建築の知識ももった上であの映画を見直すとさらに新たな発見がありそうです。
翻訳は見事なまでの逐語訳で、ここまで来ると下手に小細工をされるよりも元の文章がはっきりわかって親切かもしれない。でも、読みにくいこと限りなし。以下の文章なんて機械翻訳で和文英訳したら、かなりの精度で原文に近いものが出てくるんじゃないかと思えます。
私たちは身廊、即ち教会堂の主部についてだけ話しすぎたようだが、これらの木造の教会は勿論、祭壇を置くために東側につき出た小さな木造の内陣をもっていた。教会堂について話をしながら、以下のことに言及することはおもしろいかもしれない。それは、教会の祭壇は常にその東端にあるので、もしあなたが教会の中で祭壇に面して立つならば、建物の北側があなたの左手側になり、南側は右手の側になるということである。説明だけではわからないときには参照できる写真が多数挟み込まれているのですが、原著にあったものではなく訳者が独自に選んでつけたもののようです。これは高く評価できます。該当個所に挿入されていたらもっと親切だったけどね。
イギリスの街を歩いていると半地下の部屋がある家をよく見かけるのですが、あれは地下室でも自然光が入るようにするための工夫かと思っていました。ところがどうやら、ロンドン大火災の後、クリストファー・レンに代表される後期ルネッサンス様式の建築では、正面入口のポーティコを立派に見せるため階段をつけたのですが、階段をつけるためには家の1階部分を上げなくてはならず、そのために半地下を造って土台にしたらしい。いやあ、聞いてみないとわからないことってあるんですね。
窓枠を持ち上げて窓を開ける、いわゆるサッシュ・ウィンドウはオレンジ公ウイリアムがオランダから持ち込んだ技だとか、14世紀に黒死病でそれまでの技術をもっていた職人や大工が死んでしまったためにゴシック様式が生れたとか、ノルマン建築というのは実はノルマン風でもなんでもないとか、へえっ!と思うようなことがなんの衒いもなくさらっと書かれています。
この本の内容をすべてしっかり頭に入れることができたら、イギリスに関する小説を読んでも映画を見ても、これまで以上の情報を取得できるはずなんですが(例えば小説の中で家の描写があった場合、それがいつ頃に建てられたもので、どういう階級の人が住んだものかなどがわかる)、専門用語が多くて読んだそばから忘れてしまうのでなかなか難しいです。
英国建築物語
原題:The Story of English Architecture
作者:ヒュー・ブラウン
訳者:小野悦子
出版社:晶文社
ISBN:4794958994
by timeturner
| 2011-11-19 19:47
| 和書
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