2011年 10月 14日
慶応わっふる日記 |
将軍家御典医・桂川甫周のひとり娘・みねは早くに母を亡くし、父とふたりきりの家族だったが、蘭学者でもある父を訪れる人たちや書生、女中たちで家の中は常に賑わい、寂しさを感じることはめったにない。化学を研究する叔父や、庭で火薬やセメントを作る実験にいそしむ友人たち、変わったことがいつでも起こり、退屈することのない毎日でもあった。だが、年号が元治から慶応へと変わり、将軍と天皇が相次いで亡くなった頃から世の中は激しく変わり始める・・・。
実在の人物、今泉みねの口述自叙伝『名ごりの夢』に触発されて書かれた小説で、みねの一人称で語られています。桂川甫周は本格的な蘭和辞典を編纂した人だそうで、当時の日本にあってはいちばん外の世界に通じていたと思われます。それでいて徳川家に忠義をつくしていたのですから、なかなか複雑なポジションだったのではないでしょうか。
物語の最後は徳川慶喜が大政奉還を行い、江戸の町が物騒になってきて、みねもいざというときの覚悟をするところで終わるのですが、このあと桂川家にどんなことがあったのか、続きが読みたくてたまらなくなりました。『名ごりの夢』を読めばいいのかな。甫周は明治14年まで生きており、みねは佐賀藩出身の司法省官吏と結婚したのをみると大事はなかったのでしょう。
桂川家に出入りする学者の中には福沢諭吉の名前も見えます。また、しょっちゅう遊びに来る父の友人が藩邸まで帰るのが面倒だからと桂川家の敷地内に西洋館を建て、そこに寝泊りするようになるというのも今の時代では考えられないような鷹揚さ。またその西洋館というのが、壁の一部を押すと引き出しが出てきたり、扉が開いたりという仕掛けがあって驚いてしまいます。当時のイギリスやフランスの一般人の家にそんな仕掛けがあったはずもないのですが、お城の話などからでもヒントを得たのでしょうか。
タイトルにある「わっふる」は、みねの伯父が咸臨丸でアメリカに行ったときの土産に持ち帰ったレシピと器具で伯母がわっふるを焼いてくれる話からとってあります。ほかにもミシンでお手玉を縫う話や、外国の珍しい話として気球飛行や蒸気機関車の話も紹介されたりします。長い間鎖国状態だったところにそうして西洋の珍しいものや役立つ知識がどんどん入ってきて、でもそれと同時に武士道もまだしっかりと根付いている国というのは、私が知っている日本ではなく、どこか異次元にある不思議の国のようです。
作者:村田喜代子
出版社:潮出版社
ISBN:4267012814
実在の人物、今泉みねの口述自叙伝『名ごりの夢』に触発されて書かれた小説で、みねの一人称で語られています。桂川甫周は本格的な蘭和辞典を編纂した人だそうで、当時の日本にあってはいちばん外の世界に通じていたと思われます。それでいて徳川家に忠義をつくしていたのですから、なかなか複雑なポジションだったのではないでしょうか。
物語の最後は徳川慶喜が大政奉還を行い、江戸の町が物騒になってきて、みねもいざというときの覚悟をするところで終わるのですが、このあと桂川家にどんなことがあったのか、続きが読みたくてたまらなくなりました。『名ごりの夢』を読めばいいのかな。甫周は明治14年まで生きており、みねは佐賀藩出身の司法省官吏と結婚したのをみると大事はなかったのでしょう。
桂川家に出入りする学者の中には福沢諭吉の名前も見えます。また、しょっちゅう遊びに来る父の友人が藩邸まで帰るのが面倒だからと桂川家の敷地内に西洋館を建て、そこに寝泊りするようになるというのも今の時代では考えられないような鷹揚さ。またその西洋館というのが、壁の一部を押すと引き出しが出てきたり、扉が開いたりという仕掛けがあって驚いてしまいます。当時のイギリスやフランスの一般人の家にそんな仕掛けがあったはずもないのですが、お城の話などからでもヒントを得たのでしょうか。
タイトルにある「わっふる」は、みねの伯父が咸臨丸でアメリカに行ったときの土産に持ち帰ったレシピと器具で伯母がわっふるを焼いてくれる話からとってあります。ほかにもミシンでお手玉を縫う話や、外国の珍しい話として気球飛行や蒸気機関車の話も紹介されたりします。長い間鎖国状態だったところにそうして西洋の珍しいものや役立つ知識がどんどん入ってきて、でもそれと同時に武士道もまだしっかりと根付いている国というのは、私が知っている日本ではなく、どこか異次元にある不思議の国のようです。
作者:村田喜代子
出版社:潮出版社
ISBN:4267012814
by timeturner
| 2011-10-14 21:42
| 和書
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