2011年 10月 04日
ぼくは夜に旅をする |
イェール大学の考古学者の息子ジャックは14歳。父親とふたりで大学構内に住み、高校に通いながら大学のラテン語教授の翻訳の手伝いもしているという天才少年だが、人づきあいが苦手で友人はひとりもいない。ある日交通事故にあったジャックは不思議な体験をするようになった。奇妙な会話が聞こえたり、幽霊を見るようになったのだ。診察を受けるためニューヨークを訪れたジャックは、グランドセントラル駅で謎の少女ユーリに出会い、一緒に訪れた駅の地下から死の国に足を踏み入れた・・・。
ギリシャ神話のオルフェウスの話が下敷きになっていますが、肉付けの仕方がとても上手で焼き直しなんて印象はまるでありません。読み始めてすぐに話の中の世界に引き込まれ、読み終わるまで本をおくことができませんでした。
普通以上に頭がいいからというだけでなく、幼い頃に母親を亡くし、そのために父親との関係もぎこちなくなってしまった少年が人間関係をうまく結べなくなっているという設定があるので、ジャックが世の定めに反して死の国に足を踏み入れることができたことが自然に感じられるし、少女ユーリとの友情にも単純な好意だけではないものが混ざっていることが感じられるのもほんの少し不気味風味を与えていていい。
オルフェウスとは言ってもここに描かれているのはギリシャの黄泉の国ではなく、ニューヨーク黄泉の国というところも面白い。ニューヨークで死んだ人、死んだのはほかの土地でもニューヨークに長年暮らして永住権のある人はここにいられるというのも愉快です。他の土地にはその土地の黄泉の国があるというわけ。死ぬ場所は選ばないとなあ、なんて思ってしまいました。まあ私の場合は生れたときから東京に住んでいるので、たとえ他の土地で死んでも東京黄泉の国に入れると思いますが。←って本気にしてるのか(^^;)?
とはいえ、ここに出てくる黄泉の国は天国ではありません。いわゆる in between というところで、この世に未練を残した人たちは皆ここに集まり、未練がなくなったときにエリュシオン(いわゆる天国)に移動します。
でも、この本の中のニューヨーク黄泉の国はとっても楽しそうなので、いつまでもエリュシオンに行かず、一世紀以上もとどまっている死者たちもたくさんいます。だって、飛ぶことも壁を通り抜けることもできるから生者の国の劇場だって映画館だって野球場だってタダ見できます。図書館で本を読むことも酒場で酒を飲むことだってできるのです。おまけに過去の有名人にも会える。あのニューヨークでそんなふうに暮らせるのなら、誰もそうすぐに天国に行って退屈な永遠を過ごしたいとは思いませんよね。
もう死んでいるから病気になったり疲れたり暑さ寒さを感じたりもしないし、食べる必要も寝る必要もない。私なんてうらやましくて、これが本当ならすぐにでも死にたいと思いました。
でも主人公は14歳の少年ですから死にたいなんてこれっぽっちも思いません。むしろ愛する人をここから連れ戻したいと願います。すごく健康的。←当たり前ですか。
処女作だというのにアメリカ探偵作家クラブ賞の最優秀ジュヴナイル賞を受賞し、続編『The Twilight Prisoner』ももう刊行されていますが翻訳は出ないのかなあ。映画化も決まっているそうですが、IMDbにはまだ詳細は出ていませんね。おそらく続編と合わせて1本の映画にするんじゃないかな。
ぼくは夜に旅をする
原題:The Night Tourist
作者:キャサリン・マーシュ
訳者:堀川志野舞
出版社:早川書房
ISBN:4152089695
ギリシャ神話のオルフェウスの話が下敷きになっていますが、肉付けの仕方がとても上手で焼き直しなんて印象はまるでありません。読み始めてすぐに話の中の世界に引き込まれ、読み終わるまで本をおくことができませんでした。
普通以上に頭がいいからというだけでなく、幼い頃に母親を亡くし、そのために父親との関係もぎこちなくなってしまった少年が人間関係をうまく結べなくなっているという設定があるので、ジャックが世の定めに反して死の国に足を踏み入れることができたことが自然に感じられるし、少女ユーリとの友情にも単純な好意だけではないものが混ざっていることが感じられるのもほんの少し不気味風味を与えていていい。
オルフェウスとは言ってもここに描かれているのはギリシャの黄泉の国ではなく、ニューヨーク黄泉の国というところも面白い。ニューヨークで死んだ人、死んだのはほかの土地でもニューヨークに長年暮らして永住権のある人はここにいられるというのも愉快です。他の土地にはその土地の黄泉の国があるというわけ。死ぬ場所は選ばないとなあ、なんて思ってしまいました。まあ私の場合は生れたときから東京に住んでいるので、たとえ他の土地で死んでも東京黄泉の国に入れると思いますが。←って本気にしてるのか(^^;)?
とはいえ、ここに出てくる黄泉の国は天国ではありません。いわゆる in between というところで、この世に未練を残した人たちは皆ここに集まり、未練がなくなったときにエリュシオン(いわゆる天国)に移動します。
でも、この本の中のニューヨーク黄泉の国はとっても楽しそうなので、いつまでもエリュシオンに行かず、一世紀以上もとどまっている死者たちもたくさんいます。だって、飛ぶことも壁を通り抜けることもできるから生者の国の劇場だって映画館だって野球場だってタダ見できます。図書館で本を読むことも酒場で酒を飲むことだってできるのです。おまけに過去の有名人にも会える。あのニューヨークでそんなふうに暮らせるのなら、誰もそうすぐに天国に行って退屈な永遠を過ごしたいとは思いませんよね。
もう死んでいるから病気になったり疲れたり暑さ寒さを感じたりもしないし、食べる必要も寝る必要もない。私なんてうらやましくて、これが本当ならすぐにでも死にたいと思いました。
でも主人公は14歳の少年ですから死にたいなんてこれっぽっちも思いません。むしろ愛する人をここから連れ戻したいと願います。すごく健康的。←当たり前ですか。
処女作だというのにアメリカ探偵作家クラブ賞の最優秀ジュヴナイル賞を受賞し、続編『The Twilight Prisoner』ももう刊行されていますが翻訳は出ないのかなあ。映画化も決まっているそうですが、IMDbにはまだ詳細は出ていませんね。おそらく続編と合わせて1本の映画にするんじゃないかな。
ぼくは夜に旅をする
原題:The Night Tourist
作者:キャサリン・マーシュ
訳者:堀川志野舞
出版社:早川書房
ISBN:4152089695
by timeturner
| 2011-10-04 22:11
| 和書
|
Comments(0)