2011年 07月 18日
少年 |
ノルウェー人の両親のもと、ウェールズで生れたロアルド・ダールが、幼くして亡くした父の遺志によりイギリスの学校に行かされて経験した「忘れられない」記憶の断片集。
6歳以前のことはほとんど覚えていないというダールが、それ以降の忘れようにも忘れられない思い出の数々を綴っていきます。ノルウェーの商人の息子として生まれながら、小さな町での暮らしにあきたらず広い世界を夢見て家出し、成功した父親が、子どもたちは絶対にイギリスの学校で教育を受けさせたいと願っていたのはなぜなんだろう? ノルウェーの小さな島で過ごした夢のような夏休みの話を読み、それとは対照的なイギリスのパブリックスクールでの体罰といじめに満ちた学生生活の話を読むと、ノルウェーでのびのびと育てるほうが子どもにとっては幸せなのにと思ってしまいます。
ランダフ大聖堂学校(7~9歳)、セント・ピーターズ校(9~13歳)、レプトン校(13~20歳)と学校は変わっていきますが、厳格な教師や寮母、それに上級生たちによる体罰はどこでもつきまといます。『自由と規律』にもありましたが、そうした不自由で不幸な環境を経験することで、どこに行っても耐えられる強い心と体ができることをダールの父は望んでいたのでしょうか。確かに学校を卒業後に就職したシェル石油から東アフリカに派遣され、苛酷な環境の中に放り込まれても嬉々として働くことができたのは好奇心だけでなく、こうした学校で培った頑健さのおかげなのかも。
タイトルのBoyを『少年』と訳していますが、実はこれ、ダールが母親に毎週欠かさず書き続けた手紙の最後に名前の代わりにサインしていた言葉なんですね。ちょっとマザコンぽいところも見られますが、まあ、これだけしっかりした、それでいて子どもの自主性を大切にできる母親なら仕方がないかと思います。若くして異国で未亡人になり、6人の子どもを無事に育て上げるなんて並大抵のことではありません。まあ、経済的な苦労がない状況だったという幸運はあるのですが。
ここに書かれている思い出の中にはのちに彼の作品の題材になったと思われるものもたくさん出てきます。レプトン校時代に、キャドベリー社が生徒たちに新作ショコレートの箱を送ってきてモニタリングをさせたなんてエピソードからは『チョコレート工場の秘密』が生れたにちがいない。意地悪で不潔な駄菓子屋のプラチェット婆さんや子どもを苛めることを楽しんでいるような教師らはダールのブラックで奇妙な短編の登場人物のようです。
本筋とは関係ありませんが、寄宿学校に行く子供たちが家からの差し入れを入れておくための鍵付きの箱をタック・ボックスと呼ぶというのは初めて知りました。学校はこうした差し入れを大いに奨励していた(食事の予算を切り詰められる)というのですからあきれちゃいますね。
少年 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
原題:Boy
作者:ロアルド・ダール
訳者:永井 淳
出版社:早川書房
ISBN:4150712573
6歳以前のことはほとんど覚えていないというダールが、それ以降の忘れようにも忘れられない思い出の数々を綴っていきます。ノルウェーの商人の息子として生まれながら、小さな町での暮らしにあきたらず広い世界を夢見て家出し、成功した父親が、子どもたちは絶対にイギリスの学校で教育を受けさせたいと願っていたのはなぜなんだろう? ノルウェーの小さな島で過ごした夢のような夏休みの話を読み、それとは対照的なイギリスのパブリックスクールでの体罰といじめに満ちた学生生活の話を読むと、ノルウェーでのびのびと育てるほうが子どもにとっては幸せなのにと思ってしまいます。
ランダフ大聖堂学校(7~9歳)、セント・ピーターズ校(9~13歳)、レプトン校(13~20歳)と学校は変わっていきますが、厳格な教師や寮母、それに上級生たちによる体罰はどこでもつきまといます。『自由と規律』にもありましたが、そうした不自由で不幸な環境を経験することで、どこに行っても耐えられる強い心と体ができることをダールの父は望んでいたのでしょうか。確かに学校を卒業後に就職したシェル石油から東アフリカに派遣され、苛酷な環境の中に放り込まれても嬉々として働くことができたのは好奇心だけでなく、こうした学校で培った頑健さのおかげなのかも。
タイトルのBoyを『少年』と訳していますが、実はこれ、ダールが母親に毎週欠かさず書き続けた手紙の最後に名前の代わりにサインしていた言葉なんですね。ちょっとマザコンぽいところも見られますが、まあ、これだけしっかりした、それでいて子どもの自主性を大切にできる母親なら仕方がないかと思います。若くして異国で未亡人になり、6人の子どもを無事に育て上げるなんて並大抵のことではありません。まあ、経済的な苦労がない状況だったという幸運はあるのですが。
ここに書かれている思い出の中にはのちに彼の作品の題材になったと思われるものもたくさん出てきます。レプトン校時代に、キャドベリー社が生徒たちに新作ショコレートの箱を送ってきてモニタリングをさせたなんてエピソードからは『チョコレート工場の秘密』が生れたにちがいない。意地悪で不潔な駄菓子屋のプラチェット婆さんや子どもを苛めることを楽しんでいるような教師らはダールのブラックで奇妙な短編の登場人物のようです。
本筋とは関係ありませんが、寄宿学校に行く子供たちが家からの差し入れを入れておくための鍵付きの箱をタック・ボックスと呼ぶというのは初めて知りました。学校はこうした差し入れを大いに奨励していた(食事の予算を切り詰められる)というのですからあきれちゃいますね。
少年 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
原題:Boy
作者:ロアルド・ダール
訳者:永井 淳
出版社:早川書房
ISBN:4150712573
by timeturner
| 2011-07-18 20:27
| 和書
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