2010年 05月 02日
流謫の地に生まれて |
ゴドウィン・ピークは中流下層階級に生まれたが、奨学金を得てエリートのための学校ホワイトローで学ぶことになった。持ち前の優秀な頭脳と努力によって優秀な成績を収め周囲からも認められていたが、あともう少しで卒業というところで粗野なおじが学校のまん前に食堂を出すと聞き、自らが受けるであろう嘲弄を予想し学期半ばで退学した。身につけた科学の知識をいかしロンドンの化学工場で細々と働いていたゴドウィンは、休暇で訪れたエクセターで旧友バックランドの妹シッドウェルに会い、その美しさと彼女が体現する上流社会に強烈に惹かれる。なんとかして自らにふさわしい社会に地歩を得ようと、ゴドウィンは自らの信条に反して牧師となることを決心するのだが・・・。
『余った女たち』の著者です。今回は男性が主人公で、だからなのかここで描かれる理想の女性シッドウェルはあくまでもヴィクトリア朝の「家庭の天使」の姿をしています。ゴドウィン・ピークにはギッシング自身を投影しているそうですから、理性では新しい女性たちを支持していながら感情の部分では古い意識にとらわれていたんでしょうか。そのあたりの葛藤はシッドウェルの性格が物語の進行にともなって少しずつ変わっていくところにも現れているのかも。新しい女であるマーセラやジャネットがブス、というのもなあ。
それにしてもこの頃までのイギリスの階級意識というのはすさまじいものがありますね。今でももちろん残っているでしょうが、ここまであからさまではないでしょう。教養も才能もある人間が生まれが卑しいというだけでここまで疎外される、そしてそのことを疎外されるほうも当然と感じているというのがすごいです。下層階級らしい下層階級の急進派には寛容に接するのに、自分たちの社会に入ってこようとするゴドウィンは蛇蝎のように嫌うというのも理解しがたい。
そもそも出世の糸口として牧師という職業を選ぶことが「卑劣」だとは私にはまるで思えないんだけどなあ。無宗教の日本人だからそう思うんでしょうか? でもイギリスの歴史を見ていけば、決して信仰心から牧師や神父になっているわけではなく、やっていることも神をも恐れぬ所業だったりする連中が山ほどいるじゃないですか。ジェイン・オースティンの小説に出てくる牧師だって、ほとんどが経済的理由で牧師になってますよね。
ゴドウィンはアメリカにでも行けば成功できたかもしれない。でもゴドウィンの性格ではアメリカ人にはなじめないかなあ。でもってボストンあたりの上流社会に入り込もうとしてまた失敗するのかも。ああ、悲惨。
登場人物の誰にも感情移入できないし、語られることも「えー、そんなあ」とか「まさか」と思うようなことばかりなんですが、それでも面白くて読んでしまいます。主義信条とは別に、人間性の描き方が巧みなのとこの時代の(中流の?)人間が持っていた高潔さのようなものが魅力なのかもしれません。
邦題の「流謫(るたく)」、読めませんでした。「流謫の地に生まれて」より「Born in Exile」のほうがわかりやすいじゃないか。ほかにも初めて目にするような難しい日本語がたくさん出てきて情けないったら。
ギッシング選集 (第2巻)
原題:Born in Exile
作者:ジョージ・ギッシング
訳者:溝川和雄
出版社:秀文インターナショナル
ISBN:4879633879
『余った女たち』の著者です。今回は男性が主人公で、だからなのかここで描かれる理想の女性シッドウェルはあくまでもヴィクトリア朝の「家庭の天使」の姿をしています。ゴドウィン・ピークにはギッシング自身を投影しているそうですから、理性では新しい女性たちを支持していながら感情の部分では古い意識にとらわれていたんでしょうか。そのあたりの葛藤はシッドウェルの性格が物語の進行にともなって少しずつ変わっていくところにも現れているのかも。新しい女であるマーセラやジャネットがブス、というのもなあ。
それにしてもこの頃までのイギリスの階級意識というのはすさまじいものがありますね。今でももちろん残っているでしょうが、ここまであからさまではないでしょう。教養も才能もある人間が生まれが卑しいというだけでここまで疎外される、そしてそのことを疎外されるほうも当然と感じているというのがすごいです。下層階級らしい下層階級の急進派には寛容に接するのに、自分たちの社会に入ってこようとするゴドウィンは蛇蝎のように嫌うというのも理解しがたい。
そもそも出世の糸口として牧師という職業を選ぶことが「卑劣」だとは私にはまるで思えないんだけどなあ。無宗教の日本人だからそう思うんでしょうか? でもイギリスの歴史を見ていけば、決して信仰心から牧師や神父になっているわけではなく、やっていることも神をも恐れぬ所業だったりする連中が山ほどいるじゃないですか。ジェイン・オースティンの小説に出てくる牧師だって、ほとんどが経済的理由で牧師になってますよね。
ゴドウィンはアメリカにでも行けば成功できたかもしれない。でもゴドウィンの性格ではアメリカ人にはなじめないかなあ。でもってボストンあたりの上流社会に入り込もうとしてまた失敗するのかも。ああ、悲惨。
登場人物の誰にも感情移入できないし、語られることも「えー、そんなあ」とか「まさか」と思うようなことばかりなんですが、それでも面白くて読んでしまいます。主義信条とは別に、人間性の描き方が巧みなのとこの時代の(中流の?)人間が持っていた高潔さのようなものが魅力なのかもしれません。
邦題の「流謫(るたく)」、読めませんでした。「流謫の地に生まれて」より「Born in Exile」のほうがわかりやすいじゃないか。ほかにも初めて目にするような難しい日本語がたくさん出てきて情けないったら。
ギッシング選集 (第2巻)
原題:Born in Exile
作者:ジョージ・ギッシング
訳者:溝川和雄
出版社:秀文インターナショナル
ISBN:4879633879
by timeturner
| 2010-05-02 18:14
| 和書
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