2010年 04月 17日
洒落者たちのイギリス史 騎士の国から紳士の国へ |
社会的地位の基準はどのようにして〈身分〉から〈富〉へと変わったのか? ファッションという日常・具体的な視点から、近代英国社会の全体像を浮き彫りにする。
西洋の中世や日本の江戸時代では、生活様式はステイタスによって決められていました。貴族は貴族の生活を、武士は武士の生活をすることが求めら、農民が貴族や武士の生活をしてもステイタスが上がるどころか処罰の対象となったのです。人々は服装や髪型、住居などからその社会的位置を判定できました。ところが近代になると「マイ・フェア・レディ」に見られるように生活様式がステイタスを決めるようになります。こうした変化がいつ、どのように起こったのかをお洒落の観点から考えてみようというのがこの本の趣旨で、図版も多く、なかなか楽しめました。
イギリスで最初に贅沢禁止法が出されたのはエドワード三世治世下の1336年で、このときは下層民が上流の真似をして高価な牛肉を食べてはいけない、などという料理に関する規定だったのですが、すぐ翌年に衣服に関する禁止令が出され、以後1604年にすべての贅沢禁止法が廃止されるまで次から次へと新しい禁止法が発令されました。なぜ何度も出されたかというと答えは単純で、みんなが無視するから。お洒落をしたいのは誰でも同じ。お金がなければ我慢するしかないけど、お金があるならたとえ身分不相応と責められたってお洒落したい、すごく自然な人間の本能かも。
それにしてもヘンリー八世からエリザベス一世あたりの時代には実際に映画に見られるような派手な衣服や化粧が当たり前だったようです。特に男性のきらびやかさはすごかったみたい。日本の武家や貴族など上流階級がどれだけ贅沢をしたのかよく知りませんが、時代劇などを見てもせいぜい大奥の女性たちが豪華な着物を着ているくらいですよね。装身具も西洋のようにキラキラ派手な宝石類は身につけていなかったし。ましてや男性は豪商が羽織の裏に禁じられた絹をこっそり使ったとかいう程度で、およそ派手さとは縁がないような雰囲気。当時の彼我の上流階級の衣服費を比較した資料とかあったら面白そうです。
興味深かったのは1363年には贅沢禁止令に先がけて「石投げ、鉄環投げ、ハンドボール、フットボール、クラブ・ボール(ホッケーのようなもの)、闘鶏」などを禁じるお触れがエドワード三世からケントの州役人に出されていること。これは騎士の子弟がこうしたスポーツやゲームの楽しみに溺れて弓術や剣術など武術の修練を忘れてしまう危険を恐れてのものだそうですが、そんな頃からフットボールがあったってことが驚きです。もちろん今のフットボールとはルールも違うのでしょうが、とにかくボールを蹴って遊んでたわけですよね。だもの、イギリス人をフットボールから切り離して考えるのは無理ってものですよね。
とまあ書かれている内容はなかなか面白かったのですが、書き方が非常に複雑というか、作者の気持ちの赴くままにトピックが移り、それに応じて時代が行ったり来たりするのでしまいにはわけがわからなくなってきます。歴史の専門家を相手にしている本ならともかく、素人を相手の本としては不親切な書き方だと思いました。また、最後のほうでふれられている、イギリス上流階級がなぜそれまでのファッション狂いをやめてトラッドに向かったかの説明もあまり納得がいくものではなかった。ファッションの専門家としての視点が欠けていることも一因かな。
洒落者たちのイギリス史―騎士の国から紳士の国へ (平凡社ライブラリー)
作者:川北 稔
出版社:平凡社
ISBN:4582474136
西洋の中世や日本の江戸時代では、生活様式はステイタスによって決められていました。貴族は貴族の生活を、武士は武士の生活をすることが求めら、農民が貴族や武士の生活をしてもステイタスが上がるどころか処罰の対象となったのです。人々は服装や髪型、住居などからその社会的位置を判定できました。ところが近代になると「マイ・フェア・レディ」に見られるように生活様式がステイタスを決めるようになります。こうした変化がいつ、どのように起こったのかをお洒落の観点から考えてみようというのがこの本の趣旨で、図版も多く、なかなか楽しめました。
イギリスで最初に贅沢禁止法が出されたのはエドワード三世治世下の1336年で、このときは下層民が上流の真似をして高価な牛肉を食べてはいけない、などという料理に関する規定だったのですが、すぐ翌年に衣服に関する禁止令が出され、以後1604年にすべての贅沢禁止法が廃止されるまで次から次へと新しい禁止法が発令されました。なぜ何度も出されたかというと答えは単純で、みんなが無視するから。お洒落をしたいのは誰でも同じ。お金がなければ我慢するしかないけど、お金があるならたとえ身分不相応と責められたってお洒落したい、すごく自然な人間の本能かも。
それにしてもヘンリー八世からエリザベス一世あたりの時代には実際に映画に見られるような派手な衣服や化粧が当たり前だったようです。特に男性のきらびやかさはすごかったみたい。日本の武家や貴族など上流階級がどれだけ贅沢をしたのかよく知りませんが、時代劇などを見てもせいぜい大奥の女性たちが豪華な着物を着ているくらいですよね。装身具も西洋のようにキラキラ派手な宝石類は身につけていなかったし。ましてや男性は豪商が羽織の裏に禁じられた絹をこっそり使ったとかいう程度で、およそ派手さとは縁がないような雰囲気。当時の彼我の上流階級の衣服費を比較した資料とかあったら面白そうです。
興味深かったのは1363年には贅沢禁止令に先がけて「石投げ、鉄環投げ、ハンドボール、フットボール、クラブ・ボール(ホッケーのようなもの)、闘鶏」などを禁じるお触れがエドワード三世からケントの州役人に出されていること。これは騎士の子弟がこうしたスポーツやゲームの楽しみに溺れて弓術や剣術など武術の修練を忘れてしまう危険を恐れてのものだそうですが、そんな頃からフットボールがあったってことが驚きです。もちろん今のフットボールとはルールも違うのでしょうが、とにかくボールを蹴って遊んでたわけですよね。だもの、イギリス人をフットボールから切り離して考えるのは無理ってものですよね。
とまあ書かれている内容はなかなか面白かったのですが、書き方が非常に複雑というか、作者の気持ちの赴くままにトピックが移り、それに応じて時代が行ったり来たりするのでしまいにはわけがわからなくなってきます。歴史の専門家を相手にしている本ならともかく、素人を相手の本としては不親切な書き方だと思いました。また、最後のほうでふれられている、イギリス上流階級がなぜそれまでのファッション狂いをやめてトラッドに向かったかの説明もあまり納得がいくものではなかった。ファッションの専門家としての視点が欠けていることも一因かな。
洒落者たちのイギリス史―騎士の国から紳士の国へ (平凡社ライブラリー)
作者:川北 稔
出版社:平凡社
ISBN:4582474136
by timeturner
| 2010-04-17 23:55
| 和書
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